JGTO 青木功会長インタビュー

戦う場を与えて頂いたスポンサーに感謝。
ツアーの品質を高めながら、試合数を増やしていきたい!

試合数とギャラリー数が長く減少傾向にある中で、早急なトーナメント活性化が必須とされている男子ツアーにあって、黄金期をけん引し、そのど真ん中に身を置いたレジェンドプレーヤー青木功氏がついにJGTO会長に就任した。黄金期を知る会長の目に現状はどう映っているのか。何から着手し、どのような構想を練っているのか。男子ツアー再生に向ける青木功体制の「今」を日本ゴルフツアー選手権森ビルカップShishido Hillsの会場で伺った。

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─ 試合会場にいると、自らも出場したいという気持ちになりますか

今回のコースセッティングやピンポジションを見ていると「ここでやれたらいいなぁ」っていう気持ちにはなりますね。まだ会長になりきれていないなぁ(笑)。

─ ゴルフを始めて60年、プロになっても50年以上。そうした気持ちは染みついて抜けるものではないですよね

それは確かに抜けませんよ。ただ、今こうやって会長に選ばれて、選手の立場やこのゴルフ界のことを考えると、これ迄ゴルフをやって来て感じたことや見てきたことで皆のために役立てられることがいっぱいあるのではないのかと思っています。

─ 選手として経験してこられたことを、一つの糧にして、それをベースに今度は違う目線、会長として全体をどうするかというお仕事になっていきますが

私の体制になったらこういう風にしたいなという構想をもって、松井功さん、大西久光さんに副会長の任に就いてもらいました。私の場合は就任してまだ3カ月しか経っていませんが、松井さんはPGA会長を6年やっておられるし、ゴルフ団体の理事長、民間企業での経営もされており「なるほど、こういう風にして進めていくのだ」など吸収しているところです。今までは考えたこともなかったし、まさか会長をやるとも思ってもいなかったですから、その中でやろうとする難しさはあります。ですが、引き受けた以上は自分もいい仕事をして、皆と一緒になって良い方向にいきたいと思っています。

─ トーナメント担当の理事として選手の方々が周りを固めていますが、その狙いはなんでしょう

コースは人を育てると言いますが、やはり今までコースを管理していた人だけだとプレーヤーの目線が入らない。あの木が邪魔だけど、あれを取ったらもっと面白くなるというようなところ。木が無くなったことによって攻めていけるようになるなとか、ただ攻めてきた時に、ちょっとこっちへ行ったらこうなりますよとか、距離も含めたコースセッティング。そういうものは試合をやった人でないとわからない部分です。そういったところから試合の経験者も入れました。

─ 今回のコースセッティングに関して、渡辺司プロがされたりしていますが、やはり変わるものですか

トーナメント担当理事とのコース下見

トーナメント担当理事とのコース下見

変わりますね。ゴルフを知っている人とコース管理を知っている人だと全然違います。ましてや渡辺プロはシニアツアーでもやっているし、レギュラーツアーでも活躍していた。その経験の中でコースセッティングをやってくれるかと言ったら引き受けてくれました。そういう風にコミュニケーションを取りながらやっています。今、渡辺司、佐藤信人、田島創志の3名のプロをトーナメント担当の理事としていますが、その人達なら、こういう風にしてくれるのではないかという構想の中で聞いてみたりしてます。渡辺プロは僕の気持ちをわかっていますから僕の手が回らない時に頼んでもできる部分があります。その中で今回のコースセッティングが最終的に出来上がりましたというのが昨日で、ここはいいじゃないか等々のチェックをしました。

─ トーナメントで主催者側にとって大事なプロアマがありますが、国内開幕戦の東建ホームメイトカッププロアマからプロが同じティーインググラウンドからやりましょうという試みを実行されましたが

我々には当然のことですが、スポンサーを大事にしなければなりません。その中でプロアマをやった時にプロが100ヤード、50ヤード後ろから打って、お客様の3人が前から打って、行き着くところがグリーンの上だったら何の会話もない訳です。それだとスポンサーが大事な取引先のお客様などを呼んできて、ただ単に1日回っただけです。だったら、若いプロは経営者のトップの人と回っても会話はできないかもしれないが、少しでも傍にいて何かお手伝いしましょうかという姿勢があれば、「この場合はどうやって打つの」とか、相手からすぐ聞けるじゃないですか。そういったものが今までは欠けていたような気がします。松井副会長などに聞いたら「それやろう」となりまして。東建の時は僕が行けなかったので、松井副会長が行ってくれました。その時の反響がすごく良かったのでJGTOの試合では、プロアマに対しては全部同じティーインググラウンドでやるという方向で今回も試してみました。そうしたら大変に好評だったので、ずっと続けても良いかなと考えています。これだったらトーナメントを開催してみてもいいなと考えてくれる人が1人でも2人でも出てきてくれたらと思っています。

─ 53年プロをされていて、青木さんが若い頃のプロゴルファーと今のプロゴルファーとでは違うと思いますが、その違いを感じられるところはありますか

今のジュニアゴルファーたちの場合は師匠がいないでしょ。大体、お父さんやお母さんでしょ。それで練習場に行ったらレッスンプロがいる。その人は師匠とは言わない。ただお金を払って教えてくれている人。そういう変化があります。我々が今あるのは、師匠のお蔭で、やれ戸田藤一郎さんに教わりました、林由郎さんに教わりましたというものがあって、また周りにもゴルフに造詣の深い政界や財界の方々も大勢おられて、何をやっていいかわからないけど師匠が行く訳だから一緒に連れていかれて、「おい!お前コッチ、アッチ」と言われて教わってきた。今はそんな時代じゃない。お父さん、お母さんの顔を見てゴルフやっている時代。お父さん、お母さんが決して悪い訳ではないけれど、「コラァ!」って言う存在がいない。極端に言えば「これはダメ、これは良い」と、押し付けてやらせることに自分で責任を持てる先生がいない。これは良きにつけ悪しきにつけですが、先生でも人それぞれで表現が違う部分があります。僕がダメだと言ったことが、他の先生では良いと言うかもしれない。だけど僕はダメだと言っているということが大前提。これはこういう風にしなさいと服従させるような雰囲気、空気の中に身を置くというところが薄れてきているのかなと感じます。今の若手プロもゴルフは上手いですよ。ただ、怒られてぐっと我慢する部分がないと、逆に強くもならないと思います。

1番ホールにて選手を送り出す青木会長

1番ホールにて選手を送り出す青木会長

キッズエスコートをした子ども達にサインのサービス

キッズエスコートをした子ども達にサインのサービス

─ 今のゴルフは面白くない。選手は綺麗なスイングをするし、プレーぶりも大人しくやっているが、何だか昔のような個性的な魅力が感じられないと、どこかに書いておられたと思うのですが

そうですね。自分のやるべきことはゴルフだけど、良いショットをした時にはギャラリーの方は拍手をしてくれます。その時に「ありがとう」というジェスチャー、パフォーマンスがあまりにも無さすぎる。妙におとなしい感じのゴルファーが多いと感じます。

─ あまりにも淡々としているということですか

そうです。優勝争いをして2位になりました、でも楽しめましたって「ふざけるな!」と言いたい。お前は何しに来た、勝ちに来たのじゃないのかと。とことん追い込んだのに悔しいという2位とは違います。あそこでボギーにしたから追いつかなかったというのと、最後まで優勝争いをしていて、入らなくてプレーオフができなかったというのも違うんです。表現の仕方が下手だし、自分を出し切っていないのだなと思います。なんていうか覇気が感じられない。

─ 我々はテレビを通じて観ることが多いのですが、パッションを感じない。悔しさや感情が見えないような

変な話ですが、結果的にミスになってそのいら立ちを表したとしても、その一瞬の行動を大げさに取り上げるのもどうかと思う。ただグリーンを傷つけた云々は別として、そうした仕草、態度を見せるとジュニアなどが見ているので気を付けましょうねというのはどうかと。目に余るほど毎回やっていたら問題ですよ。それでも出てしまうたまの1回くらいは、いちいち取沙汰するほどのことではないと思う。真剣勝負をしていたらそのくらいの仕草は出て当たり前ですよ。極端な話、大人しくやって、結果が良ければ良くて、感情が出てしまったところをマスコミに書かれるのが怖い感じ。昔は俺の事を書こうものなら「コノヤロー」なんて言いながら喧嘩したりするんですよ。「あんなこと書かなくてもいいじゃないかバカヤロー」って蹴とばして。でもその後で「今ご飯を食べているから来いよ」とかね。でもそうしたコミュニケーションを今の若い子はマスコミと取れないでしょ。

─ プロの世界ですし迫力もないと…

僕なんかはいつもジャンボとか中嶋君と試合していて、ジャンボが5mのパットを決めて、3mの僕が待っている時に「どうだ!」という顔をするから「ばかやろ!」ってね。お前が5mを入れたのに俺が3mを入れられない訳がないだろうと、入れ返して「どうだ!」って顔をすると2人で「ふんっ」てね。そういう仕草が少しでも出ると迫力だとか一生懸命さだとか何か伝わるものもあるでしょう?荒々しくてもいいから、その表現が後で取沙汰されても、あの時はこうだったと言えばいいからやりなさいと言っています。表現を素直に出せれば見ている人にとっても感情移入はできるだろうし、もっと面白いと思ってもらえると思いますね。それこそ男子ならではの熱意や熱気が伝えられると思います。

─ 現実の数字を見ると男子ツアーは危機的な状況かなと言わざるを得ない。試合数も今年は24で女子の3分の2くらい。1試合当たりのギャラリー数も女子より少ない状況です

チャリティフォトではギャラリー1人1人に握手していた

チャリティフォトではギャラリー1人1人に握手していた

一回離れていったファンやギャラリー、スポンサーを戻すのには、今に至ったプロセスがあって現状がある訳ですから跳ね返すには倍の時間がかかると思っています。1年目としては肝心の選手の教育から入っています。試合を増やすことよりもまず選手の教育、スポンサーに対する礼儀作法などの人間形成から。もちろん、結果はすぐには出るものではありませんが、とにかく松山英樹がいない、石川遼が戻らない、そんな問題じゃない。皆さんがおっしゃる通り今の男子ゴルフツアーが面白くないのです。その面白さは何かと、原点に戻って考え直す大事な時期です。まだ男子ツアーには戻す力があるし、我々も戻す自信もあります。

─ 普通の商売と一緒で、まずは品質。言葉は良くないですが、選手の品質を向上させて、そのうえでの営業であると

そうです。AONと呼ばれた時代、青木、尾崎、中嶋の3人のうちの誰かが毎週のように勝って、誰かがガッツポーズをしていた。テレビを観ている人は「今週は中嶋か、来週は青木功だ、尾崎だ」と巷の居酒屋でもどこでも話題に上っていた。今はそういう楽しみや関心がない。だから注目もしてくれないし、テレビ観戦もしてくれないのだから視聴率も下がる。もう一回原点に戻って、そこから掘り起こそうと。青木体制で駄目ならもう駄目だというくらい命がけで周りを固めてくれた人たち一丸でやっています。必ず成果は出せると思っています。

─ 今回、会長をされてとてもお忙しくされていますが、そんな中プレーヤーとして青木さんの姿を見たい人が沢山いると思いますが

それは言われます。自分の好きなことをやるから行くよと言えば、良いよと言ってくれるかもしれないが、会長の仕事を預かった以上、自分の立場から逃げているような気になるので、できる限り会長職を優先します。年齢的にも73、4歳で体調的にもいろいろとありますから会長職専念でも良いのかなとも思いますが、去年までやっていた試合が今年も約束されていて出なければならないものもあります。自分でこことここだけは行くと決めている試合はあるので、そこだけは是が非でも行けるように体調管理をして臨もうと思っています。

─ 主催者やゴルフの関係者、業界に対してご意見やご要望はありますか

逆にどんどん言って欲しいです。今の24という試合は僕がいる限り止めないで下さい。そうした上で競争する新規トーナメントが増える形になってくれば、またスポンサーにとっても活性化すると思います。良い効果が生まれるはずだと。新規トーナメントを増やすことを私のいる限りやりたいと思うので、今、スポンサーでやってくれている試合は、どうか止めることなく、今後の新規大会とより良い競争ができるよう待っていて頂きたい。

選手に対しても今後はコースに出向いて色々な選手の評判、評価を自分で確かめたいと思っています。そして、師匠代わりに「ひいては自分達のためだ」として、こうしなさい、ああしなさいと言う機会を、選手たちの職場を守るためにも増やさないといけないと思っています。そうしたことを言ってやれる師匠が選手たちにはいませんから。反発はあると思いますが、実際に言ってみた時に感じるものも出てくればいいなと思うのです。

そして、我々選手に戦う場を与えて頂いたスポンサーには感謝しかない。いつも言うのですが、スポンサーがあって、ギャラリーがあって、ボランティアがあって、コースがあって、それから我々だと。どんなにゴルフが上手くたって、試合をやってみせるフィールドがなければプロゴルファーは無いでしょ。我々にファンを引き付ける魅力が無ければまた同じことで我々の戦場は与えてもらえない。そうした原点に立ち返り年間30までの戦う場を与えてもらえるように、まずはなりたいと思います。