トラ・メモ Vol.4

Traditional & Memorial Tournament Vol.4

日本ツアーを代表するトーナメントとして長く君臨。
今後もさらなる高みを目指して常に進化を続ける

毎年、国内外のトッププレーヤーが数多く出場し、シーズン最終盤を飾るビッグトーナメントに位置付けられる三井住友VISA太平洋マスターズ。スタートして半世紀を迎えようとするこの大会は、常に日本ゴルフ界を牽引してきたパイオニア的存在だ。多くのゴルフ関係者やゴルフファンを惹きつけてきた、その秘密に迫ろう。

大会最終日に無料観戦エリアとなった6番ホール。大勢のギャラリーが来場した

大会最終日に無料観戦エリアとなった6番ホール。大勢のギャラリーが来場した

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プロゴルファーも憧れるトーナメント

1972年に太平洋クラブマスターズとしてスタートし、何度かの名称変更を経て、現在の「三井住友VISA太平洋マスターズ」となる。今年で47回目を迎える、歴史と伝統を誇る国内屈指の大会だ。

ツアーで戦う男子プロゴルファーならば、多くはこの大会に出場したいと願っていることだろう。

まず、「マスターズ」であること。資格を満たす名手(マスター)84人しか出場できないエリートフィールドである。シーズンを通し、活躍し続けられるトッププロにならなければその権利は手に入らない。ツアー最終盤に開催されるため、賞金王やシード権争いの上で、大きなアドバンテージともなる。名実ともにプロであれば是が非でも出場したい大会のひとつなのだ。

また歴史をひもとけば、早くからインターナショナルトーナメントを標榜し、海外からの招待選手が多く出場してきた。古くはトム・ワトソンやセベ・バレステロスら、近年ではセルヒオ・ガルシア、バッバ・ワトソンなど。その時代の世界のトップランカーがプレーしてきたことで、選手のみならず、コースセッティング、大会スタッフ、ボランティア、そしてギャラリーまでが、自ずと世界のレベルを知り、その雰囲気に近づいていった。必然的に世界を意識する選手にとっては、出場は憧れであり、目標となった。この大会で活躍をした石川遼選手、松山英樹選手、小平智選手らはその夢を叶え、世界へと羽ばたいている。

2018年大会優勝を果たした額賀辰徳選手

2018年大会優勝を果たした額賀辰徳選手

そして、賞金額の高さもこの大会への出場意欲をかきたてる。1972年の第1回大会の賞金総額はドル建てで30万ドル。当時のレートは1ドル308円で、円に換算すると9240万円だった。当時の大卒初任給(公務員)が4万7200円だったことを考えると、破格のビッグマネーとなり、ゴルフ界のみならずプロスポーツ界全体に一大センセーショナルを巻き起こした。その後、賞金は1985年からは円建てとなり、年々増額されてきた。賞金総額は1985年に8000万円、2002年には1億5000万円へ、そして2008年からは2億円となり、常に高額賞金大会としてゴルフ界を牽引している。

第1回大会は総武カントリークラブ(千葉県)でスタートし、その後1977年から現在の太平洋クラブ御殿場コース(静岡県)へ変更され、そのまま定着している。コースの景観の美しさ、戦略性の高さ、そして抜群のコンディションは選手からの評価も高い。「ガラスのグリーン」と称される高速グリーンが数々の名勝負を演出し、多くのギャラリーをも魅了してきた。

世界基準となるトーナメントコースを目指し、2017年に全面改修へ。監修に松山英樹プロ、設計を世界的なゴルフ設計家であるリース・ジョーンズ氏が担当し、昨年の大会でその進化した姿を披露した。ティーショットのIP地点を現在のトーナメント基準である280ヤード地点に改め、すべてのバンカーの位置、大きさ、深さ、数などを見直した。さらにフェアウェイラインやウォーターハザード(現・ペナルティエリア)についても手を加え、バラエティ豊かなレイアウトとなり、ショットオプションも豊富になった。プレーをする側も観る側もよりエキサイティングになったのは言うまでもない。

ボランティアと地元に支えられる大会

大会運営の要であるボランティアスタッフ

大会運営の要であるボランティアスタッフ

毎年、多くのギャラリーが訪れる。直近の10年では、天候不良で3ラウンド大会となった2015年を除く全ての大会で1万3000人以上のギャラリー数を記録した。2万人以上を記録したのは5大会あり、そのうち2009、2010年は3万人を超える大ギャラリーが押し寄せた。これだけのギャラリーが集まる大会だけに、運営に携わるボランティアも多くの人数が必要となる。今やトーナメント運営に欠かせない存在となったボランティアだが、この大会がその先駆けだ。社会奉仕などの意識がさほど広まっていなかった1986年の第14回大会から、ボランティアスタッフによる運営システムを導入している。当時、有志32名が大会をサポートした。

長年、地元・御殿場の市民を中心に全国から募集してきた。参加者の数は増え続け、1992年には115人、1996年には初めて1000人を突破した。2010年代に入ると、毎年延べ1500人以上のボランティアスタッフが様々な仕事にあたり活躍している。参加者の職種や年齢層は幅広く、ゴルフを愛する気持ちや地域に貢献したいという熱い想いのもとに大会は支えられ、毎年、安全かつスムーズな運営ができている。

地元御殿場市の観光案内ブース

地元御殿場市の観光案内ブース

御殿場市では「三井住友VISA太平洋マスターズ協力会」が組織され、地元からのサポートも手厚い。会場に向かう沿道では歓迎フラッグや横断幕が設置され、ギャラリーを出迎える。御殿場市の野立看板には、大きく書かれた大会名と歓迎の文字でその歓待ぶりを伝える。市内の飲食店などが大会公式アプリに来場者向けのオリジナルクーポンを提供し、会場内では観光案内や地場産品の販売なども担う。毎年、市の広報紙でも大会の特集に紙面を割き盛り上げている。昨年は地元新聞で、会場内で限定販売される石川遼選手会長発案の「大会ピンフラッグ」が紹介され、その効果もあり3日目に完売を記録。こうした地元密着の官民一体の協力体制もこの大会を支える大きな柱のひとつだ。

新たなゴルフファン獲得への試み

ゆるぎないトーナメントの地位を保ちつつも、常に新しいチャンレンジも忘れてはいない。昨年、「無料観戦エリア」をオープンした。「土・日曜限定で、特定3ホールのみ出入り自由で観戦無料」とする大胆なサービスを行った。気楽にプロのプレーを”プチ観戦”できたわけだ。来場者からは「新聞広告をみてきた。充分楽しめた」「日曜日にあらためて家族ときた」など好評の声が多く、狙い通り、新たなゴルフファンの拡大につながっていた。

半世紀に及ぶ歴史と伝統を築き上げることができたのは、幾度となく降りかかる困難にも立ち向い、継続し続けた主催者の強い使命感もさることながら、それを支え盛り上げてきた強力な地元のサポートが見事にマッチしてきたからだろう。決して成功に甘んじず、日本ゴルフ界全体の発展のため、果敢なチャレンジもいとわない、その矜持が、古くさくならずに、常に時代をリードする大会として魅了する輝きを放ち続けているのだろう。

スマホやタブレットを活用したゴルフ観戦の新しいスタイルを提案

2018年の三井住友VISA太平洋マスターズの会場で、TBSテレビがこれからのゴルフ観戦のスタイルを提案する新サービスの実験を行った。会場内限定でテレビ中継映像を配信するサービス、次世代スポーツ観戦アプリ「ライブマルチビューイング」だ。

広大なゴルフコースでは、移動しながらの観戦も醍醐味だが、全てのプレーを見ることは不可能。そこで、スマホやタブレット端末に専用アプリをダウンロードして、たとえば18番ホールのグリーンサイドにいながら15番〜18番ホールのライブ映像を見ることができるようにするというものだ。

映像では、スコアデータ、実況チャットなどをタップ一つで切り替えながら楽しむことができ、複数のホールを1画面で見ることもできる。(画像1参照)

また大会ごとに画面のレイアウトを変える事も可能で、ホール図を表示したりマルチ画面の数を増減する事も可能だ。(画像2参照)

これまでゴルフ観戦といえば、「歩き回るので体力的に大変」「他のホールにいる選手のプレーも観たい」といった声も多く聞かれた。しかし、このサービスがあれば、最終ホールのギャラリースタンドに座ったままで好きな選手のラウンドを追いかけることもでき、全体の試合展開も把握できるようになる。今後のゴルフ観戦に欠かせないものとなるかもしれない。

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