舩越園子のWorld Golf FUN FAN REPORT

ゴルフと社会との接点を増やしたい

文/舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

ゴルフファン拡大のため大学生の入場料優待を発表したプレーヤーズ選手権

ゴルフファン拡大のため大学生の入場料優待を発表したプレーヤーズ選手権

“第5のメジャー”と呼ばれるプレーヤーズ選手権は、米PGAツアーが旗印に掲げるビッグ大会。ここ数年は毎年5月に開催されていたが、ツアー全体のスケジュールが大幅に変更された今季は、従来より2か月繰り上げて3月に開催される。

そのプレーヤーズ選手権が年明け早々、誇らしげに発表した新施策は「大学生を優待します」というものだった。大学生と大学院生の入場チケットは1日45ドルになるそうで、これは通常価格の25~35%オフの大ディスカウント値段だという。

開催時期が3月になったことで、大学や大学院の学期の区切りとタイミングが合ったため、「せっかく、そうなったのなら」ということで、米PGAツアーは大学生と大学院生の優待を早々に決めた。

「一人でも多くの学生に我がPGAツアーの試合に足を運んでほしいし、試合観戦を直に体験してほしい」

優待価格を利用して観戦に訪れる大学生や大学院生は、必ずしもゴルフ好きではないかもしれない。だが、ゴルフを知らないとすれば、なおさら未知の世界を体験してほしい。そうすることで、何かが開けることだってある。そういう小さなチャンスや可能性を創出することが大切だと、米PGAツアーは考えているのだろう。

「最高の経験だ」

その米PGAツアーで最大観客数を誇るフェニックス・オープンは、すでに今年2月に開催され、これまで何度も惜敗を続けてきたリッキー・ファウラーがついに勝利を挙げて地元アリゾナの人々を歓喜させた。

だが、大会開幕前には、もう1つ、人々の視線を釘付けにした出来事があった。ダウン症の女子大生ゴルファー、エイミー・ブロッカーセットさんが昨年大会の覇者ゲーリー・ウッドランドとともに、TPCスコッツデールの名物ホール、16番(パー3)をプレーして大観衆から拍手喝采を浴びていた。

これは知的障害者を支援するスペシャル・オリンピックのアリゾナ支部と同大会が数年前から開始した企画の一環で、「ドリーム・デイ」と名付けられた火曜日に数人のスペシャル・オリンピアンが選手たちと一緒にプレーを体験できるというものだ。

アリゾナ州内のコミュニティ・カレッジに通っているエイミーさんは、奨学金で大学へ進学し、ゴルフ部に籍を置く初のダウン症のカレッジ・アスリートだそうで、今年のフェニックス・オープンに参加し、米PGAツアーで貴重な体験をした初のダウン症のアスリートにもなった。

果敢にティーショットを打ち放ち、バンカーにつかまりながらも危なげなくパーセーブしたエイミーさんを見守りながら、ウッドランドは「僕にとっても最高の経験だ。素晴らしい」と感動しきり。一緒に回っていたマット・クーチャーも、ギャラリースタンドから見守っていた大観衆も、みな惜しみない拍手と歓声を送り、エイミーさんもうれしそうに笑顔を輝かせていた。

そして、その場面はSNSを通じて世界中へ広められ、彼女と彼らの笑顔を見た誰もが、思わず笑顔になったのではないだろうか。

「ゴルフの大ファンになった」

その前週。カリフォルニア州のサンディエゴ郊外で開催されたファーマーズ・インシュアランス・オープンの開幕前には、ファウラーが6歳の少年、ジャスティン・ギルバートくんと行動をともにしていた。

2017年の夏、テキサス州に住むギルバート一家はハリケーン・ハービーの被害を受けて家を失い、途方に暮れていた。心臓に疾患を抱えて生まれたジャスティンくんには清潔で安心な住環境が必要。そんな一家と現地で知り合い、以後、励まし続けているファウラーは、少年と両親を大会へ招き、ジャスティンくんとトーリーパインズの数ホールをともにプレーした。

「息子はリッキーとゴルフの大ファンになりました」と、ジャスティンくんの両親は感無量の様子だった。

大学生と大学院生。スペシャル・オリンピアン。重い病を抱えながら災害被害に遭った少年。彼らは未来のプロゴルファーを目指すトップジュニアではないが、この社会を生き、未来を担っていく若い力だ。

そんな彼らに、何はともあれゴルフを見て知って楽しんでもらうこと。直に体験してもらうこと。それは、学生や障害者、子供たちを励ます社会貢献ではあるが、同時に、そういう取り組みこそがゴルフ好きを増やす最初の一歩となり、その積み重ねがゴルフ人口の裾野を広げていくのではないか。

誰もが誰かに助けられながら前進していく。だからこそ、ゴルフの場にノンゴルファーを招き、ゴルフファンを増やしたい。ゴルフと社会との接点を増やしていきたい。あらためて、そう思わされた3つの出来事だった。