舩越園子のWorld Golf FUN FAN REPORT

米ツアーの2018-19シーズンを振り返る

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

今季の過密日程を超克したR.マキロイとB.ケプカ

今季の過密日程を超克したR.マキロイとB.ケプカ

米ツアーの2018-19年シーズンは、全米プロの開催時期を8月から5月へ変更し、4月から7月までメジャー大会を毎月開催する新しいスケジュールで行なわれた。メジャー4大会の前後にはプレーヤーズ選手権や世界選手権シリーズといったビッグ大会もあり、レギュラーシーズンが終了するやいなや、プレーオフ・シリーズへ突入し、8月で全日程が終了。これほどの超過密日程は、米ツアー史上、初めてのことだった。

シーズン開幕前から、その是非はある程度、予想されていた。メジャー大会やビッグ大会が短期集中型で行なわれれば、好調な選手は好調なまま駆け抜ける一方で、不調に陥った選手や傷病で躓いた選手は、次々に押し寄せる試合の中で、自分のゴルフを立て直せないまま、シーズンを終えるのではないか。私も、そう思っていた。

いざ蓋を開けてみれば、大方の予想通り、好不調の差は歴然となった。ひたすら好調を維持したのはブルックス・ケプカだった。マスターズ2位タイ、全米プロ優勝、全米オープン2位、全英オープン4位タイとメジャー大会すべてでトップ5入り。年間3勝を挙げたケプカはフェデックスカップ・ランク1位でレギュラーシーズンを終え、今年から新設されたウインダム・リゾート・トップ10のボーナス2ミリオン(200万ドル=約2億1200万円)を手に入れ、プレーオフ最終戦のツアー選手権でも優勝に迫ったが、最終日はまさかの失速で3位タイ。

逆転優勝を遂げたローリー・マキロイが年間王者の座とボーナス15ミリオン(1500万ドル=約15億9000万円)を手に入れたが、年間3勝を挙げたのはケプカとマキロイの2人だけだったという事実が興味深かった。

一方、ジョーダン・スピース、ジェイソン・デイ、ダスティン・ジョンソン、松山英樹といった選手たちは、過密日程の下、持てる実力を発揮し切れないままシーズンを終えた感がある。

タイガー・ウッズも過密日程の影響を受けた1人だった。4月のマスターズを制し、メジャー15勝目、通算81勝目を挙げたウッズだが、奇跡的な復活劇はウッズの心身を極度に疲弊させ、以後のウッズはボロボロになった心身の回復に、ただただ必死だった。

次々にビッグ大会が押し寄せるスケジュール下では回復のための時間的余裕は皆無に近く、結局、メジャーの後は休養し、「ぶっつけ本番」的に次なるメジャーへ出場。その結果、全米プロも全英オープンも予選落ち。マスターズ以後、出場したレギュラー大会は、わずか1試合だったというところに、ウッズがどれほど自身のスケジューリングに苦悩していたかが伺えた。

たくさんの「声が」上がった1年

この過密日程を初体験した選手たちの感想は、さまざまだった。ケプカをはじめとする好調組の間では、言うまでもなく「短期決戦は集中できていい」と好評だった。

逆に、米ツアー通算10勝ながら今季は1勝にとどまったジャスティン・ローズは、過密日程に批判的な意見を述べた。

「米ツアーがフェデックスカップを偏重するあまり、大切なメジャー大会が毎月、次々に開催された今年のスケジュールは、あまりにも過密だった。メジャーに向けてゴルフや心身をピークに持っていくための準備は、たったの1か月ごとでは万全にはできない」

ローズの言葉は、まさにウッズの事情や気持ちを代弁しているような内容だった。

とはいえ、詰まるところゴルフは心技体すべてを含めた競い合いである。いかにメンタル面をポジティブに保ち、肉体を健康に保ち、ゴルフの安定性を保ちつつ、トータルでパフォーマンスを向上させることができるか。

今季の過密日程は、その差をこれまで以上に歴然とさせたと言えるのではないだろうか。心技体すべてにおいて頑強な選手こそが、勝利を挙げ、ランクアップしていった。2019年シーズンは、そういう1年だった。

さらにもう1つ、今季は選手たちの声が多数上がった1年でもあった。シーズン序盤は今年から施行された新ルールに対する批判の声が次々に上がり、シーズン終盤はスロープレーに対する批判の声が噴き出す形になった。

選手たちの声が上がること自体は悪いことではない。風通しのいいツアー組織でなければ、改善改良は実現されない。だが、選手どうしの個人攻撃や揶揄は、ファンを落胆させかねない。

大切なのは、選手たちから上がった声をツアーなり運営団体なりが素早く吸い上げ、迅速に対応すること。そして、その対応に公平性と透明性を保つことだ。

プレーオフ第1戦のノーザントラストでブライソン・デシャンボーのスロープレーぶりに選手たちから批判の嵐が巻き起こったが、米ツアーはその週のうちに新たなスロープレー対策のシステムを検討するという声明を出した。アウト・オブ・ポジション、イン・ポジションに関わらず、全選手の全ショット、全パットの所要時間を計測し、選手ごとの平均値をリスト化する方向で検討するという。

これまでスロープレー対策が「甘い」と批判されてきた米ツアーが、ようやくアクションを起こしたことは、来季の米ツアーの在り方に大きな影響をもたらしそうな予感がする。その影響に「好」が付くことを願っている。