第7回GTPA安全対策セミナー
GTPAでは、ゴルフトーナメントに関わるさまざまな「安全対策」について、啓蒙活動や講演セミナーを開催しています。その活動の一環として、6月27日、第7回安全対策セミナーがTKP赤坂駅カンファレンスセンターにおいて約80名の会員の皆様の参加で開催されました。ゴルフ業界を取り巻く数々のリスクに対し、確かな知識とスキルを持つことはとても重要です。ここで、2部構成で行われたセミナーの様子をレポートします。
第1部「クレームに対する法的対応方法」
第1部では、クレーム対処についての講習が行われました。講師は光風法律事務所の弁護士、松田恭子先生と岩永智士先生です。講習はクレームの定義、クレーム対応の時系列的整理、初期対応の方法、具体的交渉のポイントについての解説が行われ、さらに実際のゴルフトーナメントの事例を元にケーススタディも紹介されました。
クレームの定義と対応の時系列的整理
そもそもクレームとは、顧客から企業に向けられた相談や問い合わせなどの「要求行為」に、苦情、文句、抗議などの「不満足感情」が加わったもの。要求行為に対しては理屈で返していくことが処方箋となりますが、不満足感情には、理屈とは全く別の相手をヒートアップさせる言動を慎むスキル、すなわち「感情沈静化スキル」が必要です。
初期対応
感情の沈静化のポイントは3つあります。
第一に共感しながら話を聞くということ。クレーム対応で単にぼんやり聞くのは相手の感情をより激化させる行為です。
第二はマザリングです。お母さんになった気持ちで、駄々っ子をあやすように相手と対面すること。相手を嫌だなあと思わず、心に余裕を持ってヒートアップした感情を沈静化させることです。
第三のポイントは謝罪です。こちらに非はなくても、お客さまに悲しい想いをさせたことに対して謝罪します。ただマニュアル通りに「申し訳ありません」と繰り返しても相手の怒りを納められません。相手と状況に適した言葉で謝罪することです。
相手の感情の沈静化は30分~1時間が目安。集中して相手の話を聞きましょう。
材料集めでは、まず「具体的に何を要求されているのか」を特定する必要があります。
話をしていると内容があちらこちらに飛んで、相手の要求がいくつあるのか分からなくなります。これを避けるには、話を聞きながら一つ一つの要求にナンバリングしていくことです。
具体的交渉
こちらに法律上の過失がなければ、あとは会社としての原則に従うことになります。「同種の要求に対して、弊社ではこのように対応しています」と交渉することになります。
原則対応ではどうしても納得できないというお客さまもいます。この場合はそこから譲歩した例外案も可とします。しかし大幅な譲歩はせず、一歩だけの譲歩に留めることが大切です。第三者が見た時、過剰な譲歩と判断されないかということを考えます。
ここまでの対応で収束すれば一般通常のクレームです。しかし収束しないものは悪質クレームに分類されます。こうなったら「弊社としてはこれ以上の協議はいたしません」と、縁切り状態にして構わないでしょう。95%はこれで解決し、残りの5%程度はさらなる反撃(裁判、SNS、マスコミに訴えるなど)をしてくることになるでしょう。
ケーススタディ1
「ある大会が3日間で競技が行われる予定だったが、台風の影響で日曜日が中止となり、2日間終了時点の結果を持って順位を確定し、大会は成立した。これに対して大会の前売り券(4枚綴り)を購入していたお客様から『友人ら4人で最終日を観戦しようと思っていたのに、一日も観戦できなかった。前売り券を払い戻ししてほしい』と要望を受けた」
【解説】この前売り券は4枚綴りで、一人で毎日1枚ずつ使ってもいいし、友人らと分けて一日で使い切ってもいいシステム。チケット裏の注意書きを見ると、多くは「大会不成立の場合を除き払い戻しはしません」という注意書きがあり、このように明確な記載があれば法的には払い戻しの義務はありません。
しかし、このようなケースは十分に考えられるので、何らかの対策をしておくことは必要です。そのためには、記載内容を明確にしておくこと。「大会不成立」「この日が中止」「サスペンデッド」などの違いは一般のお客さまにはわかりにくいので、どういう場合が大会不成立なのか、その定義をきちんと大きく、はっきり明記することが大切です。
ケーススタディ2
「ツアーに参加しているある女子プロ選手Aから、大会主催者に対して『競技中に、ファンが集中力を乱すような言葉をかけてきたり、プレゼントを渡そうとしてきたりする。大会の運営者として、そのような特定のファンに何かしらの防止策はとれないか』と申し出があった。そのファンはSNSなどでA選手を応援するグループを組織しており、その上で、上記のような活動を組織的に行っていることがわかった」
【解説】A選手とファンの間に何かトラブルが起こったときに、運営側に法的責任があるのかどうかが出発点になります。
ファンがトラブルを起こせば、その責任はそのファンにあることは当然ですが、そのトラブルが事前にある程度予測でき、何かしらの予防策を講じることができたのであれば、運営側にも何らかの法的義務が負わされることも考えられます。
選手への声かけ行為を禁止するのか、ものを渡すことを禁止にするのか。そこの規制はサービス対応として運営側が決める必要があり、決めたことは事前にファンにアナウンスすべきでしょう。
第2部「救急救命講習」
第2部は、公益財団法人東京防災救急協会・赤坂消防団の協力のもと、救急救命講習が行われました。トーナメントの現場には多くの人が集まり、いかなる事故が発生するかわかりません。このような救急救命講習を受けておくことで、緊急の場合でも落ち着いて対応できるようになります。
およそ50名が参加した今回の講習では、胸骨圧迫や人工呼吸の方法、AED(自動体外式除細動器)の使用方法などが解説されました。いずれも実際に体験しながらの実務講習で、参加者は緊急の状況をイメージしながら最後まで真剣に取り組んでいました。
トーナメントの現場に関わる主催者、各団体、広告会社、運営会社の方々にとっては、実務として非常に有用なセミナーとなったことでしょう。約3時間の講習が行われ、参加者には後日、「救命技能認定証」が交付されました。
心肺蘇生の手順
- 周囲の安全確認
- 反応の確認
- 119番通報とAEDの搬送
- 呼吸の確認
- 心肺蘇生
周囲の安全を確認してから傷病者に近づき、自らと傷病者の二次的危険を取り除きます。
両肩を軽くたたきながら名前や「大丈夫ですか」などと呼びかけて反応を確かめます。
反応がなければ大声を上げて人を呼ぶ、119番通報、AEDを取りに行くなどの行動をとります。
普段通りの呼吸をしているかどうか、10秒以内で確認します。傷病者の胸腹部に目をやり、呼吸を目視でも確認します。
心肺蘇生とは、胸骨圧迫と人工呼吸を組み合わせたものを言います。心停止が疑われるあらゆる人に対して胸骨圧迫を行います。人工呼吸の訓練をうけておりその技術と意思がある場合は人工呼吸も行います。
AEDによる除細動の行い方
- AEDの到着
- 電源を入れる
- 音声メッセージどおりに行動する
- 電極パッドを貼る
- 除細動(電気ショック)を行う
- 除細動実施後の対応
救助者が複数いる場合は、一人が胸骨圧迫を続けながら、別の一人がAEDを操作します。
AEDの機種によって、救助者が電源ボタンを押すものや、カバーを開けると自動的に電源が入るものとがあります。
電源を入れると、使用方法が自動的に音声メッセージで流れます。その通りに行動します。
傷病者の胸に直接電極パッドを貼ります。AEDが、除細動が必要かどうかを自動的に解析、判断するので、その間、救助者は傷病者に触れないように注意します。
電気ショックが必要な場合は、「ショックが必要です」と音声で指示されます。準備が完了すると「ショックボタンを押してください」と音声指示があり、ショックボタンが点滅。救助者は誰も傷病者にふれていないことを確認してからボタンを押します。
除細動を実施した後は、胸骨圧迫30回、人工呼吸2回の心肺蘇生を行います。