第8回GTPA安全対策セミナー
GTPAでは、ゴルフトーナメントにおけるさまざまな「安全対策」について、講演やセミナーを通じて啓蒙する活動を続けている。その一環として、7月11日、都内で「第8回安全対策セミナー」が開催された。
約80名の参加者を集めた第1部は、元大阪府警警視で、数々のイベントの警備に携わってきた貝辻正利氏による「イベントの安全対策の基礎知識」についての講演が行われた。第2部は赤坂消防署・公益財団法人東京防災救急協会による「普通救命講習」が行われた。
第1部
「イベントにおける安全対策の基礎知識」
貝辻氏は警察機動隊指揮官として大阪万博や奈良国体等々、そして退職後も関西国際空港開港時の警備責任者や愛知万博のほか大型国際会議などの安全対策を経験し、イベント安全対策に関する研究活動に基づいて講演活動を行っている安全対策のスペシャリストである。この講演前に、リゾートトラストレディスと宮里藍サントリーレディスオープンの2つのトーナメントを視察し、実際のゴルフトーナメントの警備体制の課題なども含めた講演となった。ここに講演の一部を紹介する。
「イベント開催の究極の目的は“人々に幸せを享受”していただくことである。幸せを感じる源は“命”だ。イベントに関係する事故で犠牲者等を出せば全ての面で“信頼を無くすこと”になる。そのイベントは日常生活にない行事を人が創造し多くの人々を集めて行う行事である。従って、その責任は、主催の下ですべてのイベント関係者がイベント段階とイベント実施段階で努力することにより防止することが可能であることから、最終責任を負う主催者や企画・運営者・警備業者などすべてのイベント関係者にある。」
イベント安全対策の原点
その責任である安全対策の原点は、“何から”“何を”“どのようにして守るか”だ。(図1)
- どのようにして守るか! 〜想定外を無くす
- どのようにして守るか! 〜来場者の心理と行動予測
それは、危険予測、危険予測対応対策、そしてイベント実施段階での組織活動である。
最初に、“危険想定外”を無くすには、イベント関係者の危機意識の醸成、ゴルフに関わる事故分析、犯罪情勢の分析、そして“ヒヤリ・ハットの法則”を参考にしてゴルフトーナメントで起こる“ヒヤリ・ハット” (図2.ハインリッヒの法則)の収集・集約と活用である。
多数の人々の行動予測は困難なことだ。来場者の立場に立って来場者の心理予測と行動予測による危険個所予測とパニック防止対策はゴルフトーナメントでも重要な要素である。
危険予測に基づく次の対策の確立
- 来場者数予測評価 〜すべての安全対策の基礎数値である
- 会場空間利用計画評価 〜地形を考慮したレイアウト
- 来場者流動予測評価 〜会場内外の来場者の流動
- 会場と会場周辺の構造物評価
来場者数予測は、来場手段別予測、来場経路別予測を行うことで具体的な危険予測と対策を検討することが可能になる。ゴルフトーナメントでは優勝争い、著名な選手の出場、その他曜日別来場者数予測である。
ゴルフトーナメントは大会ごとに地形などのコンディションが異なる。ゴルフ場では坂、階段、トンネル、急傾斜、細い橋梁や通路など前例踏襲ではなくその都度来場者誘導導線を検討する必要がある。
会場内と会場周辺の来場者の流れは連動させなければならない。そのためには緊急避難等も考慮した出入り口設定が重要になる。ゴルフトーナメントでは、人気選手追っかけファンの流動対策が必要である。
坂道、橋梁、階段、急傾斜そしてボトルネックになる場所等々構造物に対する危険性を把握して安全対策を検討することだ。ゴルフトーナメントでは、来場者に移動コースでの地形や構造物条件を考慮した検討が必要である。
テロを含む犯罪情勢への対応
- テロ対応セキュリティ 〜発生可能性の考察
- 犯罪情勢 ~ゴルフトーナメント会場は聖域ではないという認識が必要
- 主催者等の対応の基本
2017年・2018年の警察白書、公安調査庁国際テロリズム要覧によれば“我が国及び国民に対するテロの脅威は現実のものとなっている”とされている。そして、警備が薄いソフトターゲットを攻撃対象とし日常生活で使用される道具を凶器として使用している。2020年東京オリンピックではゴルフ競技が正式種目になっているが当該競技のみではなく“ゴルフトーナメントも攻撃対象になり得る”と考えるのが自然の流れである。想定外では言い訳にならない対策であるので防止対策を検討すべきである。
AKB48サイン会での傷害事件、サリン事件、歩行者天国への乱入、新幹線車内での刃物による殺人事件等々通常では考えられない事件が発生しているのが現実である。ゴルフトーナメント出場選手や役員等に対するこの種の事件の発生可能性を排除することは出来ない。このようなテロや事件に対する専門家である警察の指導と協議が必要である。
ゴルフトーナメント主催者が取るべき対策の基本は、まず危機意識の醸成である。次に必要なことは来場者の協力を得ることである。現下の治安情勢では説明を尽くせばご理解とご協力を得られると考えられる。要は“正しく知りて、備える”であり、主催者をはじめとしたイベント関係者全体が真剣に取り組むことが大切である。
緊急事案発生時の対応
危機に対応するためには“危機管理規定”は不可欠である。そこで定める危機対応体制は実施体制と別個にあるものでは無く日常体制の延長線上にある。そして、危機管理体制は“絵に描いた餅”ではなく機能しなければならない。機会を見て訓練を行い修正を加えることで成果を発揮できるものだ。
第2部
「救急救命講習」
第2部は、赤坂消防署・公益財団法人東京防災救急協会の協力のもと、救急救命講習が行われた。トーナメントの現場には多くの人が集まり、いかなる事故が発生するかわからないのでこのような救急救命講習を受けておくことにより、緊急の場合でも落ち着いて対応できるようになる。
およそ50名が参加した今回の講習では、胸骨圧迫や人工呼吸の方法、AED(自動体外式除細動器)の使用方法などが解説された。いずれも実際に体験しながらの実務講習で、参加者は緊急の状況をイメージしながら最後まで真剣に取り組んでいた。
トーナメントの現場に関わる主催者、各団体、広告会社、運営会社の方々にとっては、実務として非常に有用なセミナーとなった。
約3時間の講習が行われ、参加者には後日、「救命技能認定証」が交付された。
心肺蘇生の手順
- 周囲の安全確認
- 反応の確認
- 119番通報とAEDの搬送
- 呼吸の確認
- 心肺蘇生
周囲の安全を確認してから傷病者に近づき、自らと傷病者の二次的危険を取り除く。
両肩を軽くたたきながら名前や「大丈夫ですか」などと呼びかけて反応を確かめる。
反応がなければ大声を上げて人を呼ぶ、119番通報、AEDを取りに行くなどの行動をとる。
普段通りの呼吸をしているかどうか、10秒以内で確認する。傷病者の胸腹部に目をやり、呼吸を目視でも確認する。
心肺蘇生とは、胸骨圧迫と人工呼吸を組み合わせたものを言う。心停止が疑われるあらゆる人に対して胸骨圧迫を行う。人工呼吸の訓練をうけておりその技術と意思がある場合は人工呼吸も行う。
AEDによる除細動の行い方
- AEDの到着
- 電源を入れる
- 音声メッセージどおりに行動する
- 電極パッドを貼る
- 除細動(電気ショック)を行う
- 除細動実施後の対応
救助者が複数いる場合は、一人が胸骨圧迫を続けながら、別の一人がAEDを操作する。
AEDの機種によって、救助者が電源ボタンを押すものや、カバーを開けると自動的に電源が入るものとがある。
電源を入れると、使用方法が自動的に音声メッセージで流れるのでその通りに行動する。
傷病者の胸に直接電極パッドを貼る。AEDが、除細動が必要かどうかを自動的に解析、判断するので、その間、救助者は傷病者に触れないように注意する。
電気ショックが必要な場合は、「ショックが必要です」と音声で指示される。準備が完了すると「ショックボタンを押してください」と音声指示があり、ショックボタンが点滅。救助者は誰も傷病者にふれていないことを確認してからボタンを押す。
除細動を実施した後は、胸骨圧迫30回、人工呼吸2回の心肺蘇生を行う。