舩越園子のWorld Golf FUN FAN REPORT
トータルな人間力が求められる時代
文・写真/舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
米ツアーの昨季プレーオフ最終戦、ツアー選手権でタイガー・ウッズが5年ぶりの復活優勝を遂げたとき、世界中が喜びに沸いた。「手術した腰を抱えた42歳が80勝目を挙げることができて、僕はとてもラッキーだ」と語ったウッズは、本当にうれしそうだった。
しかし、その余韻に浸る間もないまま、ウッズはすぐさまライダーカップ出場のため、米国チームの面々とともに専用ジェットでパリへ。復活優勝の勢いに乗り、ライダーカップでも大活躍が期待されていたのだが、蓋を開けてみれば、ウッズは0勝4敗の惨憺たる成績に終わった。
苦しげな声まで上げながら必死の形相でラフからの脱出ショットを打っていたウッズを見て、米メディアの間ではウッズの健康状態を疑う声が広がっていたのだが、10月半ばにペブルビーチで開かれたイベントで、ライダーカップにおける不調の原因をウッズ自身が語った。
「いろんな原因の積み重ねの結果だった。あれだけの強行軍に耐えられるだけのトレーニングができていなかった」
“あれだけの強行軍”とは、ウッズの昨季終盤の出場スケジュールを指していた。8月のブリヂストン招待の翌週は全米プロで優勝争い。その翌々週からプレーオフ4試合すべてに臨み、第3戦のBMW選手権でも最終戦のツアー選手権でも優勝争いを演じた末、最終戦で見事に勝利。そして、すぐさまライダーカップへ臨んだ強行軍は、腰の手術からの復活途上だったウッズの体力気力の限界を、ついに超えてしまったのだろう。
ライダーカップ後、米国フロリダの自宅に戻ったウッズは、今季から大幅に変更された米ツアーの新日程を初めてまじまじと眺め、「すごい過密日程だ」と驚いたそうだ。
新シーズンは強行軍
ウッズが目を見張った“すごい過密日程”とは、今季(2019年)の3月から8月の米ツアー日程のこと。プレーヤーズ選手権と全米プロの開催時期が変更され、3月はプレーヤーズ選手権、4月はマスターズ、5月は全米プロ、6月は全米オープン、7月は全英オープンという具合に準メジャー&メジャー大会が毎月連続で開かれる。8月には今年から3試合になるプレーオフシリーズが開催されて全日程が終了。今季からは、そんな短期集中型の過密スケジュールに変更されている。
その中でどんな出場スケジュールを組むかは選手の判断次第だが、今季からはレギュラーシーズン終了時点でもポイントランクの上位10名にボーナスが支給されるウインダム・リワード・トップ10なる新たなレースが新設され、誰もがそれを狙いたくなることは言うまでもない。世界ランキングは常に意識せざるを得ないし、プレーオフシリーズへの進出、年間王者の魅力は、どうしたって選手たちを試合へと駆り立てる。
昨季終盤のウッズの連戦は復活途上だった42歳の彼にとって間違いなく強行軍だったが、今季からはウッズのみならずトッププレーヤーのほぼ全員が過酷な強行軍をこなす日々を迎えることになる。
肉体管理こそが、カギ
ぎゅうぎゅう詰めの過密スケジュールの中で戦っていく米ツアー選手たちにとって、成否を分けるものは、おそらくは「故障」の二文字になると私は思う。
近年、世界ナンバー1の座に長く君臨できる選手はなかなか現れず、上位の顔ぶれもそのときどきで細々と入れ替わっている。その動きを生み出してきた原因の大半は故障や病気が発端となった成績下降だった。ジェイソン・デイ、ロ―リー・マキロイ、ジョーダン・スピース、残念ながら昨季は松山英樹も、その一人だった。
過密スケジュールとなった今季からは、故障して1~2週でも欠場を余儀なくされれば、それがビッグ大会を休むことにつながり、ポイントやランキングを挽回しようとすれば、焦りへ、不調へ、さらなる成績下降へと負の連鎖を引き起こす可能性は大きい。となれば、何より求められるものは、傷病を徹底回避するコンディショニング。肉体管理こそが、今季からの成功の最大のカギとなる。
スケジュールのみならず、2019年1月からは大幅に変更された新ルールが施行される。ここ10数年、米ツアーでは当たり前のように使用されてきたグリーンを読む際のアンチョコ(通称グリーンブック)も大幅制限されることがUSGAとR&Aによって正式決定され、妙な表現になるが、選手たちはグリーン上で新たなチャレンジを強いられる。
次々に押し寄せるたくさんの変化と強行軍。その中で流されることなく生き残り、勝ち抜くためには、ゴルフの技術力のみならず、強靭な体力、気力、精神力が不可欠だ。
世界のゴルフ界はトータルな人間力が問われる時代にすでに突入していることを、しっかり認識しながらゴルフ界の未来を考えたい。