舩越園子のWorld Golf FUN FAN REPORT 2019年11月号
日本の良さが導き出した
ZOZOチャンピオンシップの大成功
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
日本で初開催された米ツアー大会、ZOZOチャンピオンシップが無事に終わり、大会に関わったすべての人々は、祭りのあとの心地良い余韻に浸っているのではないだろうか。
開幕前から期待や注目が高かった分、不安に感じられていた面は多々あった。ギャラリーの混乱は起こらないだろうか、日本のスタッフは大会をきっちり進行できるだろうか、コース設定に批判や不満は出ないだろうか。心配の種は尽きなかった。
だが、初日から首位を守り抜いたウッズがサム・スニードの最多勝利数記録に並ぶ通算82勝目を達成という最高の形で幕を閉じた。それが今、とても嬉しい。
ファンがもたらしたサプライズ
アコーディア習志野CCには練習日から大観衆が詰め寄せた。最寄り駅とコースを結ぶギャラリーバスは「90分待ち」「120分待ち」と待ち時間が伸びていったが、人々は徒歩30~40分の距離を歩き始め、沿道は大群の行進になった。「バスの台数を増やせ」などと不平不満を口にするのではなく、人々は黙って行動に移した。
それは居ても立ってもいられないほど会場入りを楽しみにしていたことの表れであり、混乱を起こさず、大会のスムーズな進行を望んでいた人々の協調性の表れでもあった。
これまで私は、日本のゴルフの試合会場は不気味なほど静かだと感じていた。日本のギャラリーの観戦は、おとなしすぎると感じていた。だが、習志野にやってきたギャラリーの中には、虎の着ぐるみに身を包んだ人、子どもに虎柄のベイビー服を着せた人、顔に虎をペイントした人もおり、いろんな演出が雰囲気を盛り上げていた。
「タイガー!タイガー!」
熱い声援も方々から飛んでいた。夢中で小走りする人、木によじ登って眺める人もいた。初日の入場者数は1万8536人、日曜日は2万2678人。大観衆から溢れ出す熱気は選手たちにも伝わり、ウッズにも届いていた。
無観客試合となった土曜日。フェンスの向こう側から突然上がった「タイガー!」の声に、ウッズも「ちょっとびっくりした」と驚きながらも嬉しそうだった。
「日本のギャラリーは知識もあり、情熱もあり、とてもグレートだった」
ウッズの褒め言葉には、日本のファンに対するリスペクトが込められていた。
日本ならではのサプライズ
金曜日に豪雨に見舞われた習志野は、土曜日の未明まで「ほぼすべてが水に浸かっていた」とは、アコーディア・ゴルフの瀧口悟エリアコースマネジャーの言。同社の黒木勝巳マーケティング部長もこう振り返った。
「開幕前、台風15号で木々が100本以上折れ、そして今度はこれです。荒れ果てたコースを見たときは心が折れそうになりました」
だが、日本初開催の大会を成功させなければという一心で、近隣からの応援スタッフを含めた総勢130名が一丸となり、午前3時半から7時間超をかけて見事にコースを復旧させた。「最善を尽くし、最大限のことをやりました」と語った黒木氏は、達成感に溢れた表情だった。
その日、プリファードライのローカル・ルールが適用されていたにも関わらず、ウッズは「ボールをピックアップすることなく、フェアウエイから打てたのはサプライズだった」と言った。それは、不眠不休でコースを復旧させたメンテナンス・スタッフにウッズが送った最大限の賛辞と謝意だった。
ウッズや他選手たちの想いや言葉を取材しては報じる記者やカメラマンの作業場となるメディアセンターは、机の並べ方から黒いクロスの掛け方にいたるまで、米ツアー会場のそれがそのまま再現されており、私にとっては馴染み深い「いつものメディアセンター」だった。米メディアも米ツアーのメディアオフィシャルも「いつもの面々」だった。唯一の違いは、日本の運営スタッフが陣取っていたこと。だが、日本メディアの要望に応えつつ、米ツアーとの橋渡し役をこなしていた彼らの存在と役割は不可欠で貴重だった。
メディア用のダイニングには和洋中のメニューが用意され、常時ピックアップ可能だったドリンク類やスナック類の充実度も素晴らしかった。細やかな気遣い、気配りが疲労困憊していた世界のメディアを元気付け、支えてくれたことは言うまでもない。
初開催で誰もが手探りだった大会を、みんなで成功させようという想いが1つになっていた。これまで25年超、米ツアーを取材してきた私が、これほどの充実感と達成感を日本で味わうことになったことは、私にとって大きなサプライズだった。
優勝したウッズが、こんな言葉を口にした。
「この日本で82勝目を挙げたことを僕は生涯忘れない」
そして、日本のファンも関係者もメディアも、この大会のことを生涯忘れないだろう。