トーナメント事業委員会セミナー

GTPAトーナメント事業委員会webセミナー
コロナ禍でのトーナメント開催に大きな関心が集まる

ゴルフトーナメントの振興・発展、安全対策への啓蒙活動の一環として毎年開催される「GTPAトーナメント事業委員会セミナー」が、7月22日に開催された。今年は新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、Web会議ツールの「Zoom」を使ったリモート形式で行われた。今回のセミナーでは、今季前半の女子ツアーで唯一開催された「アース・モンダミンカップ」の大会準備・運営の報告や中継、競技運営のガイドラインの改訂などについて、それぞれの担当者による講演が行われた。

第1部

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アース・モンダミンカップ開催の主催者の取り組みについて説明

アース・モンダミンカップ 大会実行委員長 小泉 ユミ

アース・モンダミンカップ
大会実行委員長 小泉 ユミ

新型コロナウイルスの感染拡大により、多くのプロスポーツがシーズン開幕を見合わせたり、中断したりする事態となった。プロゴルフも、男女ともに開幕戦から大会中止が相次ぎ、いまだ先の見えない状況が続いている。

そんな状況下で開催された今回のGTPAトーナメント事業委員会webセミナー。テーマは、「アース・モンダミンカップ(6月25日〜29日・カメリアヒルズカントリークラブ・千葉県)の報告および今後の対策について」。

ネット越しのリモートセミナーには約200名の会員が参加。コロナ禍で開催されたトーナメントに、大きな関心が寄せられていることをうかがわせた。

トーナメント主催者を対象とした第1部、まず演壇に立ったのは、アース・モンダミンカップ大会実行委員長を務めた、アース製薬株式会社の小泉ユミ氏。大会開催に向けた準備期間の動きや大会期間中の取り組みについて、主催者の立場から詳細に説明して頂いた。

開催にあたっては、「とにかく安全に開催したいということを最重要に考えて進めた」と言う小泉氏。準備段階では、以下の4つのポイントに注力したという。簡単に紹介しよう。


陰性確認後に配布されたバッジ

陰性確認後に配布されたバッジ

①地元との調整

カメリアヒルズCCの位置する木更津市と袖ケ浦市に、同社の大塚達也会長が自ら赴き、大会開催について説明。管轄保健所にも事前確認。協賛に関しては地元に関わらずすべて辞退。

②PCR検査の実施

大会開催週の前週に、運営スタッフら関係者に検査を実施。当該週には選手やキャディ、協会スタッフなどの検査を実施。会場入りする者全員を対象とし、総数は821名にのぼった。

③備品の手配について

消毒液、足踏み式ディスペンサー、消毒マット、空間除菌剤、ゴム手袋などを用意。スコアラーや検温係などにはフェイスシールドを用意。

④マンパワー

ボランティア募集は行わず、仕事はアース製薬社員が行った。


以上のような準備段階のコロナ対策に加え、大会期間中も以下の4ポイントに気をつけて運営したという。


①入場制限

無観客はもとより、大会関係者も最小限に絞った。メディアは幹事社のみ、選手関係者もキャディ、通訳のみ入場を認めた。

ラウンジの椅子やテーブルは撤去

ラウンジの椅子やテーブルは撤去

②クラブハウスの使用方法

ロッカーは主に個室を使用。それ以外は一つおきに使用。ラウンジの椅子やテーブルは撤去。レストランにパーテーションを設置。選手の取材はリモート形式に。

③設備関連

スタッフ控え室は、小分けにした。キャディもクラブハウス入場不可とし、外に控え室を設置した。

④入場管理と検温場所

選手や関係者の入場場所と検温場所は同じ場所とし、4ヶ所に分散させた。検温済みシールは毎日色を変えた。大会前は前2週間の検温記録と問診票、大会後は後2週間の検温記録と問診票の提出を求めた。


このような具体策の説明の後、小泉氏は「大会開催には地元の理解が重要なポイントとなる」と強調した。

「いろいろなところから何百人も集まってくるのは、地元としてとても心配だろうし、住民からの批判もあるかもしれません。自治体にも安全対策について説明しました。ちょうど緊急事態宣言も解除(5月25日)された時で、タイミングもよかったのではないかと思います」

取り組んだ施策をわかりやすく解説してくれた小泉氏。今後、大会開催を考える主催者にとってはとても参考になったはずだ。

インターネット中継ではさまざまな新しい試みに挑戦

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株式会社ショットビジョン
代表取締役社長 森 昇平

続いて登壇したのは、アース・モンダミンカップのインターネット中継で映像制作と技術を担当した、株式会社ショットビジョン代表取締役社長の森昇平氏だ。今大会はテレビ中継を一切行わず、公式YouTubeチャンネルでのみ配信されたが、その舞台裏について詳しく解説してくれた。

「今大会のインターネット中継の最大の特徴は、リモートによる完全制作を行ったことです。コロナ禍での開催ということで、現場に行く人の数を大幅に減らす必要がありました。そのため、通常は会場に置く中継センター機能を別の場所に設けました」

今回は4つのチャンネルを使ってさまざまな角度から大会の様子を中継したが、番組制作を行う中継センターは、会場から直線距離で約60キロ離れた埼玉県三郷市に置かれた。中継センター内には実況ブースも設置し、実況や解説もここで行なった。

カメラは会場に32台、三郷に4台配置。会場のカメラで収録したほぼ全ての映像はLTE回線を使ったリモート、あるいは有線で三郷に送られ、中継センターで編集作業が行われたのだ。

今回のインターネット中継のもう一つの特徴は、出場した全選手のコメントを配信したこと。これは主催者からのリクエストでもあったと森氏は言う。

会場から60km離れた埼玉県三郷市の中継センター

会場から60km離れた埼玉県三郷市の中継センター

「ファンやメディアを会場に入れられなかったこともあり、それならば全選手のコメントを紹介しようということになりました。これまでの常識からは考えられない企画で苦労もしましたが、選手も状況を理解し、とても協力的にやってくれました」

スコアリングルームの隣にインタビューエリアを設け、そこを通らなければクラブハウスに戻れないようにレイアウトしてホールアウトした選手を誘導。インタビュー用のマイクも3カ所設置し、選手が滞留することのないように配慮したという。このような工夫により、これまでにない出場全選手のコメントを配信することに成功した。

コロナ禍の無観客試合ということで、プレーの撮影などはやりやすかったようだが、今回の中継スタイルには、いくつかの課題も見つかったようだ。

「今回は、会場と中継センターとの間にディレイ(時差)が2秒発生。それにより、ラウンドレポーターと実況席との掛け合いに若干のズレが生じ、煩わしさがありました。また、今回は4GのLTE回線を使用しましたが、これは一般公衆回線です。ギャラリーがいなかったために問題なく使えましたが、多くのギャラリーが入ると何らかの影響も考えられます。通常のケースではどうなのか、検証が必要でしょう」

メディア関係者のみならずトーナメント関係者全員に、とても興味深い話となった。

机上で積み重ねた感染症対策を、アース・モンダミンカップで実践することができました

入場時に検温を行うなど入場者の管理は徹底されていた

入場時に検温を行うなど入場者の管理は徹底されていた

第1部の最後に登壇したのは、本協会の事業委員である株式会社ダンロップスポーツエンタープライズ グループ長 アシスタントゼネラルマネージャー服部宏氏。

まずはコロナ対策の観点からアース・モンダミンカップの競技運営のポイントを解説してくれた。この大会の運営に関しては、大きく2つのポイントがあったという。

「現場での運営に関しましては、アース製薬様が作成した大会運営マニュアルと感染防止対策を徹底し、JLPGAの特別規定やマニュアルを遵守して競技運営を行いました。大会に向けては、JLPGA、ミズノ、ブリヂストンスポーツと弊社の4社が、定期的に打合せを開き、会社の垣根を乗り越えて情報交換を行いながら準備をしてまいりました」

コロナ禍での大会運営は、大会に関与するすべての者が、ルールを遵守することに尽きると強調していた。

競技運営上、もう一つ大事にしたポイントはスタッフの管理だった。

「今回はスタッフの人数を極力減らし、複数のチームに分け、宿泊・移動を分散する対応をしてみました。万が一誰かが感染しても、スタッフ全員に感染が拡大しないように配慮したものですが、少数での競技運営や行動規則など、不都合や問題の発見がありました。机上で積み重ねた感染症対策を、アース・モンダミンカップで実践することができました。予想外・想定外もありましたが、経験やノウハウを蓄積することができました。今後の大会でも活かしていきたい」と大会を振り返った。

続いて、8月4日にスポーツ庁に改訂された「日本国内プロゴルフトーナメントにおける新型コロナウイルス感染症対策に関するガイドライン」について説明があった。服部氏は、「ゴルフ関連5団体(JGA、PGA、JLPGA、JGTO、GTPA)新型コロナウイルス対策会議」のメンバーにも名を連ねている。

「このガイドラインは、全て政府の新型コロナウイルス感染症基本的対処方針が基になっており、内閣官房の業種別ガイドラインとして認定されています。従って、トーナメントを開催する自治体に対しても、このガイドラインに則り開催することをご説明ください。更にゴルフ団体ごとに、特別規定やマニュアルが定められていますがそれらは全てこのガイドラインに紐づいています」などと、ガイドラインの建て付けについての説明もあった。

このガイドラインの最も重要な改訂ポイントは「試合を開催・継続することが前提である」と、基本方針が変更になったこと。コロナ禍でのトーナメント開催には、まだまださまざまに乗り越えなければいけない課題が多いものの、しっかり感染症対策を施せば開催・継続していくことができる。そんな明るい兆しをも感じさせる内容だった。

第2部

ゴルフトーナメントに関わるすべての者が、安全を第一に“日本のスポーツ文化を守る”こと

トーナメント運営担当会社などを対象とした第2部講演したのは服部宏氏で、引き続き「日本国内プロゴルフトーナメントにおける新型コロナウイルス感染症対策に関するガイドライン」の改訂ポイントの説明を行なった。

【新しく改訂されたガイドラインの主な変更点】

①基本方針

今回のガイドラインは、基本方針が全く変わりました。開催地の自治体との連携を緊密に図って、試合を開催・継続することが前提であること。ゴルフトーナメントに関わるすべての者が、濃厚接触者とならないよう正しく個人防衛に努め、クラスターを発生させないよう、安全を第一に“日本のスポーツ文化を守る”ことが、最も重要な目標となります。

②選手・関係者への対応

スクリーニング検査においては、PCR検査が最適であるが、今後は検査をした人としていない人が混在するケースもでてくる。どのような状況においても、感染防止策の徹底と、健康状態や行動履歴等の管理の徹底が最も重要となります。

③トーナメントの開催準備

主催者とゴルフ協会の意思統一が取れていることを前提に、以下を整えることが重要となります。

  • 開催県知事や開催市町村長等の自治体の承認がしっかりと取れていること。
  • 開催期間中、医療従事者(医師や看護師)のスタンバイまたは、近隣の病院との連携が出来ていること。
  • 本ガイドラインに基づき、万全の予防対策、選手、キャディ、関係者及び観客を含むすべての入場者の健康チェックを行うこと。開催地域の感染状況の把握、地域で定めるイベントに関する対策や制限なども遵守する。

④アドバイザー

各大会で専門医のアドバイザーと連携できることが望ましいことなど。

⑤イベント開催制限の段階的緩和

観客の上限数などを段階的に緩和するが、いわゆる「密」を発生させないための対策と管理体制を検討することなど。

⑥催物実施制限の検討

プロアマ、前夜祭、ホスピタリティ、ジュニアイベントなどの開催に関する注意など。

⑦感染状況の変化に備えて

大会実施制限の検討(通常開催→催物の縮小→無観客開催→延期・開催地変更・中止)の4段階あること。無観客開催の中に、「競技だけ行う」というレベルも残したことなど。

今回の改訂ポイントは上記のようなものだったが、感染の状況、地域の事情などにより、このガイドラインは今後も改訂が続けられることになる。

さまざまな感染症対策の実例を紹介した上で、「コロナ対策だけが大事なのではなく、トーナメントで日頃から務めている火事や食中毒への対策や、病人ケガ人への対応、安全対策、緊急対策等も同じだと私は思います。トーナメント企画運営会社として、安全管理は最重要であり、ケアしなくてはいけないことが一つ増えたにすぎません。」と強調していた。

他の運営会社の担当者とネット越しに情報交換するシーンも見られるなど、web会議のメリットを存分に生かし、充実したセミナーとなった。

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大会週に実施されたPCR検査。2日間で合計821名が検査を受けた

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入場時に検温を受ける渋野選手