USGAとのミーティング
全米オープンが世界最大のトーナメントと呼ばれる理由はここにある。ナショナルオープンとしてのステイタスと、年々、華やかにその規模を大きくしている大会について主催者であるUSGA(全米ゴルフ協会)ビジネスアフェアー シニアマネージングディレクターのサラ・ハーシュランド氏に話を聞いた。
2016年、全米オープンの舞台、オークモントCC(ペンシルベニア州)。ビッグタイトルを争う世界のトッププレーヤーたちがしのぎを削るその場は、同時に世界中のゴルフファンたちで賑わっていた。伝統を守りつつ、時代に応じて変化してきたからこそ今日がある。タイガー・ウッズと言うスーパースターの出現によって1990年代に大きく変わったゴルフ界は、グローバル化が加速。USGAがこれに対応してきたからこそ、今日の全米オープンの盛況がある。その成功のポイントを、ハーシュランド氏はこう分析する。「インフォメーションの伝わり方、国から国への移動など、グローバル化によって世界各国の選手が参加しやすくなったことが、大会のスケールが大きくなった要因でしょう」。確かに日本やその周辺国からも大舞台に挑む者が増え、それによって近隣の国でも全米オープンのパブリシティがなされるようになったことは大きい。
また昨年から契約しているFOXを通じて世界中にテレビ放映されている。特に今年はFOX独自のテクノロジーとして、プロトレーサーと距離表示を一緒にし、すべてのティーインググラウンドで弾道表示が出るサービスで視聴者を楽しませている。
並行してインターネットでのパブリシティも行っている。見ている人の興味をリサーチし、金銭的な部分と相談しながら、新しいものを積極的に加えていく。ライブストリーミングは190万アクセスを記録。今年は日本でもUSGAが独自に開発したアプリケーションの中で見ることができるようになった。その一方でTVのレーティングは全く落ちなかった。
近年の通信機器の飛躍的な発達にも見事に対応している。かつては携帯電話の使用に厳しい大会として知られていたが、柔軟に対応。昨年からは会場内のギャラリースタンドにWiFi環境を整え、会場内でもスマートフォンが使えるようなサービスを行っていた。「スマートフォンを持って来ても使えないのでは意味がない。好評だったので対応できるアプリケーションも改善しました。コースマップで選手がどこでプレーしているかなども見られるようになっています」ギャラリーやボランティアなども加えると1日4万5,000~5万人の多くがWiFiを使用していたとハーシュランド氏は言う。
アプリでの動画配信やハイライトなどにかかる金銭を支えているのが5つのコーポレートスポンサー(AMERICAN EXPRESS・Deloitte・IBM・LEXUS・ROLEX)だ。名前がアプリに出ることを含めてスポンサー料を支払っている。
また大会開催にかかる総額は7,000万〜8,000万ドル(約70〜80億円)。1,000万ドルの賞金もこれに含まれている。USGAはNPO法人なので収支はオープンになっているが、年間を通しての契約などもあるため全米オープンだけでの収入ははっきりしない。USGAとしての年間収入は、約65万人のメンバーが払う年会費(平均25ドル)を筆頭に、他のイベントも含めたコーポレートスポンサー料、テレビ放映権料などで合計約2億ドル(約200億円)と言う。
気になる開催コース選定については「USGA競技チームが求めるのは出場する選手の技術を試せるコースであること。それにふさわしいコースであること」と、きっぱりと言い切った。たくさんの人が集結するためプレーする18ホール以外にも広い土地が必要で、36ホールあるコースも多く、今年は使用していない18ホールにコーポレートテントを建てている。収入に大きな割合を占めるこのテントの販売は、2〜3年前に立ちあげるプロジェクトで行う。2018年、2019年のコーポレートテントはすでに計画、販売されている。
毎年の大会ロゴマークは、開催コースが決まった時点でUSGAとコースが話し合って決定。コースはロゴマーク入り商品を事前にプロショップのみで販売することができ、USGAだけがその他の場所で販売できる。ロゴ入りマーチャンダイズは、大会期間中約10日間が主だが、インターネット販売などもあり、大きな収入源になっている。
チケット販売数は開催コースによって違うが今年は各日約3万人。同じオークモントCCで開催した2007年には3万5,000枚売ったが多すぎたため減らした経緯がある。約4万枚販売することもあるが、ゲートでの待ち時間、観客が必ずプレーを見られる環境を用意するなどを考慮している。
全米オープンでは入場者数の正式発表はしていないが、USGAでは把握している。発表しないのは「必要性を感じていないし、これだけの人が集まることを明らかにする危険性、セキュリティを考えて」のこと。賞金総額もテレビでアナウンスしないが、その理由は「賞金ではなく競技として歴史ある大会のために全米オープンを戦っていることを見せたいから」だと言う。
112年ぶりにゴルフが五輪正式種目に復活したが、その旗振りをしたのもUSGAだ。2010年まで会長をしていたデビッド・フェイ氏が、R&A、PGAツアー、PGAオブアメリカ、LPGAに働きかけて五輪競技にすることを計画。米国に限らず、選手育成や環境整備に必要な支援や予算を国から得るには、五輪競技か否かで全く違う。競技が行われれば、ゴルフが活性化する可能性が高まるからだ。米国では今、国からの支援はないがゴルフが盛んなことでゴルフ振興、選手育成の為の金銭的バジェットがある。USGAにとっては資金調達の場としても全米オープンは大切だ。USGA活動費として最大となるテレビ放映権を始め、マーチャンダイジング、チケットセールス、コーポレートスポンサーシップなどがここで発生するからだ。
米国だけでなく世界のゴルフ界を踏まえて長期計画で活動するUSGA。その緻密な計画性と実行力の一端を垣間見た。