スペシャルインタビュー

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開幕以来着実に入場者数を伸ばすBリーグの
時代を見据えた集客術とは

2016年バスケットボール男子プロリーグの新リーグ発足以来、日本のスポーツ界に新鮮な話題を振りまいている「B.LEAGUE(Bリーグ)」。スター選手が続々と登場し、ワールドカップや東京オリンピックも近づく今、これまで以上に注目を集めている。毎年着実に入場者数を伸ばしてきたBリーグの、先駆的集客術についてB.MARKETING(株)佐野正昭氏にうかがった。

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アクティブな女性がターゲット。
毎年10%の集客増を目標に

─ Bリーグ開幕以来、3年連続で入場者が増えていますね

B.MARKETING(株) 執行役員 佐野正昭氏

B.MARKETING(株)
執行役員 佐野正昭氏

1年目の2016−17シーズンの入場者数は約224万人。旧BJリーグやNBL時代から大きくジャンプアップすることができました。開幕戦では、世界初となる全面LEDコートで試合をするなど、新しいリーグができたことを印象付けられたことが大きかったと思います。2年目は各クラブ(表1参照)の頑張りが大きかったです。集客は計画的に進めることが大事という考えを実践し、約250万人に伸びました。

今年の入場者数は約260万人で6%の成長です。平日の試合数を増やしたことが大きなチャレンジでした。Bリーグの試合はもともと土日だけで、観客はファミリーやカップルが中心でしたが、平日の夜ならサラリーマンや年齢層が上の人たちにも来ていただけます。集客については、我々は毎年10%増くらいを目指していますし、試合会場に来なくてもテレビやOTT(インターネットによるコンテンツ配信)でBリーグを見る人たちを増やしていきたいと思っています。

─ 入場者の詳細なペルソナを設定をされているそうですが?

Bリーグ開幕時にターゲットとしたのは、20代の女性でアクティブなグループ。若い人が来ることは重要で、彼らはSNSで発信し、他の友達も連れて来てくれる人です。各クラブはより細かくペルソナとタッチポイントを分析し、成功しているクラブもあります。収容人員5000人という枠の中で、どういう人を集めるかを緻密に考えることが成功のポイントだと思います。

集客のためのユニークな取り組み
琉球ゴールデンキングスでは、10名以上のグループには、バスをチャーターし、来場しやすくしている。グループでの来場者は、誘われてきている人も多く、その人たちが、さらに別の友達を誘い再来場してくれるといった派生効果が期待できるためだ。レバンガ北海道の「ギャル割」では、現在、ギャルである、あるいは過去にギャルだった来場者は格安で入場できる。性別は問わない。ギャルかどうかが、スタッフの判断で決まったり、選手がギャル姿のポスターで告知したりと、若者のSNS発信のニーズにもマッチした。

しっかり計画・準備をし、
1カ月前には告知することが大切

─ 告知はどのようなメディアで?

基本的には各クラブのオウンドメディア、つまりHP、SNS、メルマガなどが中心です。あとは地域のメディアで告知します。イベントなどは、1カ月前に告知することが大切です。せっかく面白い企画やイベントを考えても、直前に発表したのではお客さんは行きたくても行けません。1カ月前に告知するためには2カ月前には準備ができていて、3カ月前には計画ができている必要があります。

─ 協会がクラブのサポートをすることもありますか?

リーグとしてできることは、大きく横串を通すプラットフォームを作ることと、ナレッジシェアを促進することです。我々はWEB、チケット、ファンクラブのプラットフォームで、統一データベースを作っています。そこで各クラブのファンの属性はどうか、ここで集客が伸びた時にはどのようなイベントをやったかなどがわかるようにしています。リーグの売上をクラブに還元する「配分金」もあり、これには傾斜をつけています。この傾斜条件は入場者数でも左右しますので、クラブ側も集客に真剣に取り組むようになります。

ライト層へのアプローチは
若い世代のアイデアを大切に

─ 入場者は若年層、特に女性が多いようです。女性に限っての施策はありますか?

ベースとして、バスケットボール競技者には女性が多いという背景があります。またアリーナでの観戦は汗をかかない、雨に降られないなどで、お化粧が崩れることもありません。女性と親和性が高いのです。会場での女性の存在も大切にしています。

リーグやクラブのスタッフも、広報やマーチャンダイジング担当などは女性が中心です。同年代の女性にどういう企画が有効かを、彼女たちが考えています。例えば、男性がレディースデーの企画をすると、なんでもピンクにしてしまうというようなことがあります。でも、実際にTシャツを配ってみたら、女性はみんな青いTシャツを選んで、逆に男性がピンクを選ぶ、というようなこともあるわけです。女性のアイデアであれば、そういうズレを少なくできます。ただ、女性だけをピンポイントにした企画は少ないです。女性を意識はしますが、全体的にライトな層に広がるような施策をしています。

─ そのライト層へのアプローチはどのように考えていますか?

スポーツでは良くありますが、満足度調査をするとコア層の満足度が高くなります。しかし、コア層だけが楽しめる環境はライト層にとっては敷居が高い。これは避けなければなりません。また、友達を誘ってくれる人は重要で、一人がもう一人友達を連れて来れば単純に入場者数は倍になります。どのスポーツでも、初めて見に来たきっかけは「誰かに誘われた」からです。誘いたくなる環境、雰囲気を作っていかなくてはなりません。

─ 招待券についてはどうお考えですか?

良い招待と悪い招待があります。悪い招待は、定期的に必ず招待のタイミングが来る、あそこに頼めば招待券がもらえるというようなものです。タダでもらえる文化になると、タダでなければ行かなくなってしまいます。逆に良い招待というのは、次回はお金を払ってくれる、あるいはお金を払ってくれる人を連れて来るというものです。今、どのクラブでも成功しているのは、小学生以下は無料で親御さんはお金を払ってくださいというもの。それでお母さんがファンになって下さったというケースもあります。

企画チケットの具体的取り組み
琉球ゴールデンキングスは、「ゆい回数券」という500円安く設定した5枚綴りのチケットを導入した。2人以上で観戦に来るときは、バラバラに単品のチケットを買うよりも一枚当りの単価が下がり、2人で試合を見ると、3枚余って次回観戦に行くときには、もう一人誘うという気になる。そうすることで、チケットはまとまって売れて観客数も増える。人と人とのつながりが密接な沖縄というマーケットを睨んで考えられた販売方法である。

─ SNSの集客への影響は?

何かを訴求する時、3回タッチポイントがあれば人は「行ってみようかな」と思います。その一つがSNSです。SNSの中でもツイッターとインスタグラムは伸びていて、それと集客が連動している傾向があります。ただリーグとしては集客のためというより、エンターテインメント性をアピールする手段という意識のほうが強いですね。

─ テレビについてはいかがですか?

テレビの影響力は非常に大きいと考えており、Bリーグをナショナルブランドにしたいと思ったらテレビは絶対に必要です。ただ現状では地上波での放送が少なく、ファンは若い世代が多いので、テレビよりOTTに力を入れています。バスケットはダンクや3ポイントなど、ショートフリップを作りやすい競技です。ゴルフも同様ですね。今の若者は長時間何かを見るのは苦手で、短い時間で面白いものを見ることに慣れていますから、そこをしっかり発信していくことが大事です。

表1 日本全国に広がるバスケの輪

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Jリーグは発足から25年を経て、37都道府県に52クラブ。Bリーグは初年度からB3を含めると計45クラブが存在する。北海道から沖縄までB1・B2合わせて36クラブ日本プロスポーツ初の東・中・西の3地区制でシーズンを戦っている。<2018-19シーズンクラブ一覧>

選手の引退後も見据えた
社会貢献への取り組み

─ 「B.LEAGUE Hope(Bホープ)」について教えてください

Bリーグでは「B.LEAGUE Hope(Bホープ)」という社会貢献活動を行なっています。この背景には、スポーツの持つ力を最大限発揮するリーグにしたいという思いがあります。会場に来て盛り上がる、テレビで見て家族団欒が生まれる、地域活性化が生まれるなど、スポーツのもつ力は、そういう競技力、経済力、社会性があると思っています。

具体的には、持続可能な開発目標である「SDGs」に向き合い、クラブや選手が行う活動の積極的な情報発信や、リーグによるプログラムの開発・実施などを「Planet」「Peace」「People」の3つの領域で「Off-Court 3point challenge」活動として進めています。

社会貢献活動には正解があるわけではありませんから、まずはやれることをしっかりやること。また、選手やクラブが何かの社会貢献を考えた時にサポートできるプラットフォームにもなります。

選手自身が早いタイミングからこういう活動を意識し、社会とつながりを持つことがキャリアとして、とても重要だと思ってくれています。選手が競技だけをしていると引退した瞬間に人生そのものが終わった様に感じてしまいます。社会との接点を持つことで「自分はプレー以外にもこんな力がある」「こんなことが好きだ」とわかるきっかけになるのです。

─ 新しいシーズンに向けて、集客への取り組みは?

今年から来年にかけては、バスケットにとって大事な年です。ワールドカップ、東京オリンピック・パラリンピック、そして八村塁選手、渡邊雄太選手らの活躍……。その中で、今のムーブメントをどうBリーグにつなげでいくかが大事です。子どもが八村選手に憧れ、そのためにBリーグを見に行きたいとなって、バスケットを見る文化ができればいいなと思います。Bリーグのファン層の中心は30代で、50代以上は少ないです。でも、子どものなりたい職業になれば、祖父母が試合に連れていってくれる。50代以上の集客は、そのあたりが肝となりそうです。

これまでBリーグは、元NBAプレーヤーの田臥勇太選手の出場試合を中心に多くのお客様が集まり、話題となりました。でも、それだけでは立ち行きません。ゴルフもそうでしょうが、選手に大きな知名度がなくても、どうにかしてお客様に注目してもらわなければなりません。そこが大きな課題だと思っています。

表2 B.LEAGUE(Bリーグ)が誕生するまで

2005年11月 日本プロバスケットボールリーグ(bjリーグ)が発足。日本バスケットボール協会(JBA)傘下の社会人リーグ・バスケットボール日本リーグと国内2リーグ並立状態に。
2014年11月 トップリーグの統合などが進まないことを問題視した国際バスケットボール連盟(FIBA)が、JBAの会員資格を無期限停止。
2015年1月 両リーグの統合など、JBAの諸問題改革のため、FIBAが川淵三郎氏をチェアマン(代表)とする作業チーム「JAPAN 2024 TASKFORCE」を発足。
2015年4月 ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(JPBL)が一般社団法人として設立。川淵氏が初代チェアマンに就任。
2015年8月 FIBAの資格停止処分解除。
2015年9月 リーグの正式名称発表。大河正明氏がJPBLチェアマンに就任。
2016年3月 公益社団法人に認定される。
2016年9月 Bリーグ初年度となる2016-17シーズン開幕。