112年ぶりに復活したオリンピックへ向かう 日本ゴルフ界の構えは今

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過去に五輪の正式種目として1900年と1904年の2回開催されて以来、
ゴルフ競技が112年ぶりに復活したニュースは世界のゴルフ界の朗報となった。
記念すべきRIOまで9ヶ月。TOKYOまでは56ヶ月。
世界のゴルフ界も動きを見せる中で、2020年にホスト国となる日本ゴルフ界の今を
日本ゴルフ協会副会長(オリンピックゴルフ競技対策本部長)永田圭司氏、
日本ゴルフ協会専務理事(オリンピックゴルフ競技対策本部統轄コーディネーター)山中博史氏の
お二人に訊ねた。

─ 来年のリオ五輪、そして東京五輪、オリンピックにゴルフ競技が復活したことをどう捉えていますか

永田 まさに千載一遇のチャンス。現在では残念ながら日本のゴルフ界は低迷しており、今後もゴルフ人口が減るのではないかという心配もある訳ですが、オリンピックに参加できるということからこの機会を利用して盛り上げていく、また、すべてのゴルフ界のレベルを上げていく最大のチャンスだと思っています。とは言え、ゴルフ復活といっても110何年も前の話ですから、あらゆる人にとって初めてのことです。当然、IOC、JOCにとっても初めて、IGFもそうです。あらゆることが初めてでスタートをしている。いろんなところで皆がコンセンサスを得ていくというのには大変な時期であるという風に思います。

 まず日本では、ほぼ間違いなくプロ選手が選ばれて行くのに、なぜJGAが窓口になるのだという話からスタートしました。これはJOCに加盟しているナショナルフェデレーション、つまりJGAでしか選手を派遣できないからです。
プロであろうとアマチュアであろうとJGAが
選手を派遣するという建前になる訳です。
従ってあらゆることをJGAがコーディネートしていかなければいけないという立場にもなる訳です。しかし、このことはJGAの中だけのことではなくて当然、日本ゴルフ界全体の課題
として捉えなければいけないということで、私たちはオリンピックゴルフ競技対策本部をJGAの中に作りました。

 ここに各関係団体の皆さんに入っていただいて、すべてのことを皆さんと相談してやりましょうという体制を作りました。課題に取り組むにあたっては直近に迫ったリオ五輪の問題、東京五輪の問題があります。これを一緒に議論しようとすると非常に難しいものがあります。従って、直近のリオに関してはどういう対策をするのか、また2020年の東京五輪ではどうしていくのかということを分けてお話をした方が良いだろうと思っています。

左/JGA副会長・オリンピックゴルフ競技対策本部長 永田圭司氏 右/JGA専務理事・オリンピックゴルフ競技対策本部統轄コーディネーター山中博史氏

左/JGA副会長・オリンピックゴルフ競技対策本部長 永田圭司氏 右/JGA専務理事・オリンピックゴルフ競技対策本部統轄コーディネーター山中博史氏

112年ぶりに復活するオリンピックゴルフ競技について語る 山中氏

112年ぶりに復活するオリンピックゴルフ競技について語る 山中氏

事実上、世界のゴルフ関係者が
未体験の領域を進む不安と昂揚

─ リオ五輪の日程等のフォーマットは既に発表されていますが、その後に新たに変わった点などはありますか

山中 日程の変更などはありません。今後は実際に選手団がいつから開催コースで練習を出来るのか、いつから入っていつまでいるのか、具体的にどこに宿泊するのか、どういうチーム編成を組んで選手団として派遣するのかということの決定がリオに向けては必要になってきます。

 そうした中で12月にJOC主催で、各NFから代表者を何人か連れて行き、現地のリオの会場
を視察する機会があります。そこで我々も選手団を派遣する以上、例えば会場から選手村までの距離はどういうことになっているのか、交通状況がどうなっているのか、治安はどうなのか、空港の様子はどうなのか、選手村の環境はどうなのか、開催コースはどういう場所にあって、どういう環境にあるのかなど、ちょうどゴルフ場も出来上がってきましたので、入念に視察をして来年の派遣に向けて具体的にいろいろな準備を詰めていくということになります。

─ 実際にはプロの選手ということになりますが

永田 一番の悩みは現状のレギュレーションだと来年の7月11日現在のランキングで決まる訳ですから、そこまでは明確な代表選手を決められない。レギュレーション上、仕方ない中でも8名の強化選手をJOCに認めていただいておりますが、今のこの8名は現状での上位8名であって、その中から出場選手が決まるという確約はありません。

 従って今の強化選手については、例えば練習場施設の確保であるとか或いはナショナルトレーニングセンターのプログラムを受ける権利であるとか、そうしたことは確保されておりますけれども、それをどう利用していくのかということは個人に任されているという状況です。

─ 選手強化の点で、いつごろからどのようなステップを踏んでいくのでしょう

永田 プロの方が選ばれる可能性が非常に高いということから、強化の部分についてはPGAの倉本会長と、LPGAの小林会長に強化委員会の委員長と副委員長をお願いしました。二人とも非常に快く引き受けていただいて、それから議論を重ねました。
 その中でもリオの対策と2020年対策というものは分けて考えましょうということになりました。リオの対策というのは来年の世界ランキングをいかに上げるかということしか実は無い訳ですし、今のところ2人ずつが選ばれる可能性が高い。そうなれば男女2名の選手が現地でどれだけパフォーマンスを出せるか、これのサポート体制をどうするかということに絞って考えるということになりました。
 それから2020年に向けては少し時間がありますし、10代の有望な若手選手の中から、或いは現状の中でも志のある方を育てていくということに関して検討をしていくということに
なっています。強化委員会では現場でベストパフォーマンスを出してもらうためのサポートという観点からヘッドコーチも検討し、丸山茂樹さんが適任であるということになりました。
山中 丸山さんは技術的なコーチということだけではなくて、国際経験や、世界でプレーをしてきて、様々な試合に対する対応力も豊富です。優勝争いや、実際にチーム戦でもワールドカップで優勝を果たした他、個人でもアメリカツアーで3勝を挙げた実績があります。

 また今はアメリカに住んでいますので、日本にいる我々よりもホットな情報がダイレクトに入ってきますから、全部取りまとめて選手に適切なタイミングで適切なことを選手が望むときにアドバイスをするということが可能です。それに派遣される4人はいずれもプロのトップ選手ですから、何も今更スイングのことを教える、ゴルフの技術を教えるということでもありません。そのことは丸山さんも理解しておりまして、そのために自分はどういう役割をしなければいけないのかということを今後、我々とも詰めていくことになると思います。

─ 候補選手を最終的に見極めるというところはどのように考えますか

山中 ワールドランキングというのは、例えば日本オープンで優勝した小平選手などは一気に100位くらい上がってくる訳です。池田選手も
2位になって一気に順位を上げて、既に岩田選手を抜いて日本人選手で2番目になりました。来年にはまだWGCですとかメジャーも残っていますから、そうしたところで良い成績をあげる、また、国内でも何勝かすれば急上昇し
ます。それが大体見えてくるのは私見ですがマスターズが終わった頃かと思っています。

 それと大きな問題としてはドーピングのことがあります。ドーピングは大会の13週間前の時点で候補に入るとIGFとWADA(世界アンチ・ドーピング機関)の管理下におかれますので、候補選手にはそうしたことに対する情報提供も徹底しなければなりません。やはりマスターズが終わった頃には、候補選手に対して具体的な指示を出していかなければと思っています。
永田 今も強化選手の指名はしていますが、この点も見直しを頻繁にやって、徐々に絞り込んでいくということが必要かもしれません。石川遼選手にしても米ツアーで2~3回トップ10入りをすればまったく変わってしまうので彼にもチャンスは無いとは言えません。その辺も良く見極めないといけません。

─ リオ五輪を迎えるにあたって、今ある課題、問題点があるとすればなんでしょう

山中 我々裏方としては、やはり治安の問題やアクセスの問題など全体的な環境についてです。ゴルフも100年という時間が空いてまったく初めてのようなものですし、ブラジルも行ったことは無いですし、日本の裏側ですからニューヨークからさらに10数時間かかります。そうなると移動の飛行機だけで25時間くらいは乗っていなければなりません。そうした時の選手の体調コントロールや管理だとか、また同じゴルフをするのにも恐らく普段の環境とオリンピックの環境はまったく変わってくると思いますから、経験が無い意味での不安や心配はあります。

─ まだ早いですが、目標とするメダルの色や数などは

永田 とにかくメダルは獲ろうというところでは一致しております。数についても今後、議論いたします。今のフォーマットでいくと、例えばアメリカも4人しか出られない。女子の韓国もそうです。その意味では、松山選手などは非常にチャンスがありますし、女子の場合も同様です。そのことからもメダルという目標をしっかりと持って、それに向けて一丸となって戦おうという姿は作らなければなりません。
山中 他の試合と違って、男子も女子も60人しか出られない訳で、今のシミュレーションでいくと男子も女子もワールドランキングの300〜400位くらいまで下がります。単純計算でもライバルは少ない。ましてや、2020年ともなるとホームの利というものも出てきます。
永田 女子の韓国選手の争いは大変なもので、イ ボミ選手も今の順位だと出場できません。

強化拠点施設として宮崎フェニックス・シーガイア・リゾートが 昨年10月指定された

強化拠点施設として宮崎フェニックス・シーガイア・リゾートが 昨年10月指定された

強化指定選手はJISS(国立スポーツ科学センター)での健康・ 体力・栄養チェック等が受けられる

強化指定選手はJISS(国立スポーツ科学センター)での健康・ 体力・栄養チェック等が受けられる

東京五輪までがゴルフ界全体の
レベルアップを図る絶好の機会

─ 2020年東京五輪の会場となる霞ヶ関CCは既にIGFの承認のもと、オリンピックへ向けての改修工事が始まっている所ですが、選手強化のところはどうですか

永田 ジュニアから育成が始まってナショナルチームメンバーとなって、それを卒業してプロになるという流れの中でプロになったあとはJGAは関知しません。今は途切れています。それを一貫してやれる体制を作らないと。できればヘッドコーチがナショナルチームの時から継続してプロの時代も見ていくということも視野に入れた検討が必要かと。

 実はナショナルチームでもこれまでのやり方では対応出来ないところがあって、チーム強化の第一弾として強化育成の点で非常に成功しているオーストラリアの協会と提携をしました。ノウハウも共有しながらヘッドコーチも招聘して、ナショナルチームも強化しようと。その後のプロになってからをどう引き継いでいただくのが良いかを倉本会長らと相談していくことになります。
山中 IGFが面白いことを言っています。ホスト国となるNF、つまりJGAですが果たすべき一番大切なことはベストなプレーヤー、メダルを獲るプレーヤーを出すことだと。何故かというとオリンピックで成功するか否かは、その国の選手がいかに活躍するかにこれまでもかかっていたからだと。それが世界から見たIGFのホスト国に対する一番の要求ですと。もちろん、運営に関わるだとか、果たさなければならない役割はたくさんありますが、JGAとしてもJOCとしてもオリンピックの成功はメダルを獲れる選手を一人でも多く出すことにかかっているのだから、そこをNFは頑張れと。

─ 確かにラグビーでも主催国が予選敗退するともうどうしようもない

永田 たまたまゴルフは予選無しでやりますが、やはり最後まで上位に残るようでないと。結局、今、韓国と日本の差を見ますと、韓国のナショナルチームはすごく層が厚い。今の私どものナショナルチームはアマチュアトップの6人から多くて10人。韓国は100人単位のナショナルチームの準チームがあって、その中の競争がものすごい。そこを勝ち上がって代表になる選手は、プロへ行ってもすぐに勝てるようなチョン・インジ選手のような選手がすぐ下に大勢おります。しかも国家補助もあって資金も潤沢で、それを使って優秀なコーチを雇い、海外派遣も賄うプログラムが整備されています。この資金と層の厚みが我々とはまったく違います。これに少しでもいかに近づけるかが非常に大事な問題です。

リオ五輪のゴルフ競技成功がとても大事な要素になると話す 永田氏

リオ五輪のゴルフ競技成功がとても大事な要素になると話す 永田氏

─ ゴルフがこの先も正式競技として継続していくために必要なことはなんでしょう

永田 リオの成功というのが大事な要素になります。ひとつにはリオに送り出す選手団がいかにその大切さを知って一生懸命にやるかというのが重要なポイントです。よくゴルフやテニスには別に4大メジャーがあって、そちらが大事でオリンピックは二の次だという話がありますが違いますと。国を代表して戦うオリンピックの精神、凄さを正しく理解をして、そこでベストを尽くしていただく。その姿勢こそが見つめる世界中の方々の共感を獲得します。その意味を日本の代表になられた方にはきちんと理解していただいて、頑張っていただくというのが最初のステップだと思います。

 それにゴルフが期待されて復活した要因のひとつは世界中に競技人口が多く、テレビの視聴率もトップ選手が出る限りは期待できるし、ギャラリー数も期待できる、歴としたスポーツと判断されたということです。ましてや東京大会というのは初めて日本でメジャー大会をやるというようなことになる訳ですから、この後の計画をしっかりと提示して、日本で行うゴルフ競技はこうなりますというPRをきちんと行う必要があります。
山中 今のシミュレーションでいうと、35カ国前後の参加があります。国によっては4人、2人、1人とありますが、それだけの国の選手がひとつのフィールドの中で争う競技はそう多くはありません。しかも個人です。アメリカやヨーロッパだけではなくて、中南米、アフリカ大陸、オセアニアというところからも参加があります。

 そうしたこともゴルフがオリンピックに取り入れられる、または最初に個人戦にこだわった理由があると思います。そして各国のベストプレーヤーがオリンピックに対して出続ける限り、私は今後も外れることは無いと思います。丸山さんも言っていますが、優勝すると表彰台に立って、メダルをかけてもらい、日の丸を揚げて、国家が流れ、というところがオリンピックの一番の魅力だと思います。日本を代表するということはどういうことなのかということを、今のプレーヤーはもちろんですが、今後の世代に理解してもらうことが大切だと思います。プロはプロでフェデレーションという団体がありますし、我々にはIGFなどがありますので、そうしたところが一体となって、プロとアマが一体となって、両輪で動いてオリンピックに対することが肝要だと思います。

急ピッチで造成が進められるリオ五輪のゴルフ競技開催コース、 ルセルバ・マラペンディGC

急ピッチで造成が進められるリオ五輪のゴルフ競技開催コース、 ルセルバ・マラペンディGC

─ リオからゴルフが復活です。ゴルフ界にもいろいろな変化が起こるでしょう

永田 このことを機会に我々はレベルを上げていかないといけない。その上で2020年を迎えないと非常に恥ずかしいことになります。その中のひとつにレフェリーの問題があります。実は昨年行われた世界アマチュア選手権の時にIGFからレフェリーの要請があったのですが、彼らの基準に合うレフェリーが日本にはほとんど居なかった。東京大会をやるということでは最低でも20人くらいは国際的な資格を持った人を養成していかなければならないと思っています。これは結構大変なことで、R&Aのレベル3で80点以上取るということは相当なハードルです。今や世界できちんとしたレフェ
リー制度をとっていないのは韓国と日本だけという状況になってしまっています。猛省をしてレフェリーの資格制度、審判という資格者を養成しなければなりません。その中には当然、ルールの問題だけでは無くてマナーの問題も含めて、まずは我々がレベルを上げて日本のゴルフ界がレベルアップできるようにしていかなければいけません。その他、東京オリンピックに向けての準備作業はリオ五輪の結果と評価を待って具体的にスタートする考えです。