PGA倉本会長インタビュー

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改革の旗を掲げ、2年目も危機意識をバネに邁進

昨年、新組織体制を発足し様々な構想を公約するや矢継ぎ早に、実行に着手してみせた。

2年目の今年に入って「ゴルフ市場再生活性化に向けた新たな提案」を業界に示し、「PGAゴルフアカデミー」も早々に開校した。

文字通りの有言実行で邁進する倉本昌弘PGA会長に現状をうかがった。


― 会長に就任されてから様々な政策を発表し、精力的に実行に移されて2年目を迎えました。これまでの手応え、感想はどのようなものでしょうか

 いろいろとやらなければならないことばかりが多くて、現実は何も進まないというのが率直な実感です。

― 3月2日に「ゴルフ市場再生活性化に向けた新たな提案」という骨太の提案を発表されましたが、提案に至る背景、思い、また内容を含めまして進捗状況はいかがでしょうか

 我々はゴルフ業界の一部を担っている協会です。現在、皆さんもご承知のように、ゴルフ業界は右肩下がり、それも急激な右肩下がりに向かっているのではないかという渦中にあります。やはり、このゴルフ業界の右肩下がりを止める為には我々だけではなく、業界全体で危機感を持って何かを動かしていかなければなりません。これまでいくつかの団体が色々な動きを打ち出してきましたが、実質としては中々有効な手だてを打てていません。

 一方でアメリカは同じように右肩下がりになっているものの、USGAやPGAツアー、PGA・オブ・ アメリカ、LPGA、マスターズ委員会等が集まって、本当に危機感を持って有効な手だてを打ち出して、その傾斜は緩やかになってきています。アメリカですら様々な手だてを講じているのに、なぜ日本はそうした手だてを打てないのだろうと考え、ひとつのたたき台を我々は示すことにしました。それを元に皆で議論を深めるきっかけとなればと。所詮は絵に描いた餅であると言われるのも結構。こうした数字は実現不可能と言われることも結構。でも何か目標になる、何か指針になるものが出てこない限り、議論の余地すら無いじゃないか、というところでこの提案を出しました。

 当然、この提案に基づいて皆で手を打てば、提案に書いたように本当にゴルフ人口が2,000万人増えるのか、本当に2兆円産業になるのかというのは保証できるものではありませんが、ただ何もしなければホラー・ストーリーは見えています。トーナメントの数を含めて、我々を含むゴルフ業界の団体や至るところに悪影響が出ることは目に見えている訳です。そのことを踏まえて何か手だてを講じられたら良いと思うのです。

 このことは何も我々がゴルフ業界のリーダーシップを取りたいということではなく、皆で手を携えてやっていこうという一つの指針を出したかったということです。裏を返せば我々だけでは業界全体の現状を打開するのはほぼ不可能であるということです。仮に皆さんが、この船には乗らないよと言うのであれば、我々は我々で新たな船を造り直して、我々だけでも生き残る秘策を作って行かなくてはなりません。今後この動向を踏まえて第二弾を考えなければならないというところです。

― そうした中で6月には「PGAゴルフアカデミー」が開校となりました。その思惑と反響はどのようなものでしたでしょう

 3つの大きな柱がありまして、ひとつはジュニアの為のアカデミー、二つ目は一般の方々のアカデミー、三つ目が我々会員のスキルアップの為のアカデミーであるということです。

 まず、ジュニアのアカデミーと言うのは、一般的にゴルフをやるジュニアということではなく、ゴルフをやらない子供たちからナショナルチームへ行くような子供たちまでの育成を我々が担おうではないかということです。

 また、一般向けのアカデミーでは、これからゴルフを始めようとする方や、今、ゴルフをやっているけれども今後どのように自分のゴルフライフを作り上げていけば良いかがわからないという方々のお手伝いをしていこうということで、泊りがけで来ていただく、或いはその日に来ていただいてレッスンを受けていただくという形を取ります。それから最後の我々会員のスキルアップの為のアカデミーというのは、会員がゴルフ場を利用し、技術の取得や新しいレッスン形態の取得、同時にゴルフ場を利用してビジネススキルをアップするということです。つまり、ゴルフ場に勤める為にはどのようなビジネススキルが必要なのか、練習場などで、例えばスクールレッスンを行う為にはどのようなスキルやツールが必要なのか、加えて練習場に勤める為にはどういうスキルやツールが必要なのかということを我々会員が学んで、我々協会が職場も斡旋していくというところまで踏み込んでいきたいというように思っているところです。


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3月に都内で行われた「PGAゴルフアカデミー」記者会見。関東では栃木・太平洋クラブ益子コース、関西では兵庫・東条の森カントリークラブにそれぞれ設置することになった 6月にゴルフアカデミー開校記念のイベントとして、一日支配人を務めた倉本会長。ジュニアのレッスンも行った

― それではジュニア向けや一般向けのアカデミーの内容とはどのようなものでしょうか

 入会金、月会費、コマ制度でやっていくということですが、一般のスクールと若干違うところはゴルフ場を利用しているのでゴルフ場の練習場でスイングを固めていただき、コースへ出て練習をしていただくということです。コースへ出るといっても実はラウンドレッスンのような形式では無く、ひとホールに留まって、例えばティーからティーショットを何度も何度も打つ。それから傾斜地へ行って、傾斜地から何度も打つ。また、バンカーに留まってそこから何度も打つという練習形式をとります。テーマが決っているので、例えばラフからの傾斜のショット、平らなところからのショットを練習してもらって、どのような結果になるのか、打ち方はどう変わるのか、どのように構えなければいけないのかというところを習得してもらいます。

 既に始められている人、これから始める人などいろいろなレベルがありますが、それぞれのレベルに合わせた習得カリキュラムを提供します。

― シニアツアーも開幕し、先のKYORAKU MORE SURPRISE CUPでは3日間で約13,000人のギャラリーが詰めかけていたようです。今後のシニアツアーの魅力、見どころやお考えを聞かせてください

 6月5日・6日の金・土曜日で行われた日本プロゴルフグランド・ゴールドシニア選手権ゴルフパートナーカップでも金曜日に2,800人、土曜日には6,000人を超えるギャラリーが来られています。

 そうした事を考えますと、何か智恵を絞れば集客というのは出来るのではないかと思っています。その智恵とはなんだろうというところを我々はもっと出し合って、主催者の方とも一緒になってトーナメントを盛り上げるべく努力をしなければなりません。第一、ギャラリーの方々が来ないとトーナメントは盛り上がりません。これはテレビの放映の有無とは全く別の話で、やはり多くの方が訪れてくれることによって認知度が上がり、活性化していくものだと思うので。京楽さんも3年目を迎えて初めて多くのギャラリーが入るようになってきました。

 グランド・ゴールドもゴルフパートナーさんと組んでゴルフ場内のイベントなどを仕掛けることによって、昨年の高坂カントリークラブでは二日間で6,000人を越え、今年は二日間で8,000人を超えた。それで来年は1万人を目指そうとなってきます。そうしたことは本当に嬉しい限りなのですが、反面ではギャラリーが来れば来るほど困る問題というのも沢山ある訳です。例えば施設をどう充実させるか。ギャラリーは来て下さって、試合は楽しかったけどトイレは長蛇の列、食事に長蛇の列、帰りのバスに長蛇の列では不満も出ます。では改善するためにトイレを何百入れましょう、バスを何百台出しましょうとなっていけば、経費はどれだけ膨らむかわかりません。その辺の兼ね合いも含めて我々はもっと模索していかなければならないところがあると思います。経費が膨らむのでギャラリーを少なくしようという発想は避けなければなりません。かけるところへの経費はかける、そのためにも、来られたお客様ももっとお金を出しても惜しくないと思える有益なイベントが出来ないかなど、そうした事を模索していくしかないのではないかと思っています。

― それでは主催されている日本プロゴルフ選手権ですが、こちらの評価はいかがでしょうか

 評価しろと言われるとそれは出来なかった事ばかりで、やりきれなかったことが沢山あります。特に今回の太平洋クラブ江南コースは一年しか余裕が無かったのでセッティングという面に関しては満足のいくセッティングに仕上げるというのが非常に難しかった。そうした中でも最大級のご尽力をいただいて、フェアウェイの状態、グリーンの状態は選手の好評を得たのではないかと思っています。

 それから「俺たちの16番」というピンの位置を決めるというのは昨年の全米プロゴルフ選手権で実施された企画で、その時に私も現地に行っておりました。いろいろとお話しを伺いながら日本でもやろうじゃないかということで実施しました。もちろん、いろんな議論はあると思いますが、少なくとも数千人の方々が興味を示して下さって、投票してくれたというのは事実ですし、来年もう一度我々はやりたいというように思っています。

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KYORAKU MORE SURPRISE CUP2015では大勢のギャラリーが観戦した 投票を募ったピン位置はポジションCに決定した

― ツアーの話になりますが日本プロゴルフ選手権も勝ったのは外国の選手。彼らの強さとはどういうところにあると思われますか

 まず日本のツアーも、グローバルツアーに向かっているという意識を持たないといけないと思います。グローバルツアーを標榜しているのであれば様々な国の選手が勝利するのが当たり前です。

 もう一つあるとすれば日本ツアーで日本だけで完結している選手と、外国から来て日本を足がかりにもっと上を目指そうとやってきている選手との意識の差。その意識の差があるので外国選手はハングリーで非常に踏ん張りどころは踏ん張る。日本選手は来週も来年もあるから、日本ツアーでシードを獲得していれば良いとする者もいる…との差ではないでしょうか。

― プロテストのオープン化ということも発表されましたが、この件の内容と反響についていかがでしょうか

 かなりの方々がオープン化されてオープンクォリファイから受けて、実際にファイナルまで行った人が数人いるということを考えますと、第一弾としては成功なのかなと思っています。そういう意味では一番顕著に現れたのは田村尚之氏です。彼はもちろん資格は持っていたといいながらもシニアのテストというものが私たちには無いものですから、シニアツアーに出ることを目標にプロテストを受け、PGAの会員になり、シニアのQTを受け、シニアのシード選手になったというサクセスストーリーをまさしく彼は刻んでくれました。これからはこうした方々が増えてくるのではないかと思うので、この辺も含めて我々は開かれたシニアツアーと、同時にある程度クローズドのシニアツアーという両面のあり方を模索していかなければいけないのではないかと思っています。

― いろいろと伺ってきましたが、他に活動に関して伝えたいことなどはございますか

 今年3月2日に提言書を発表しまして、一部からは反響をいただいていますが、残念ながら多くのゴルフ業界、団体の方々から「一緒にやりましょう」という反応がありません。是非、一緒にやっていきたいと思いますし、ご質問やこんな事はできないのかということがありましたら、お話しを伺いたいと思います。一度話に来てということでも結構ですし、何かありましたらご連絡を頂戴したいと思います。

― 日本プロを終了したその翌日にアメリカに行かれて、全米プロシニア出場初日にはトップに立つというニュースを届けていただきましたが、選手としては今後の活動はどのようなものでしょうか

最初だけで最後までもたなくてすみませんでした(笑)。選手としての今後は中々練習するという時間も取れないので、そんなに活躍はできないだろうとは思っています。だからといってこのまま駄目になってしまいたくはないので、時間を見計らって少しでも練習はしておきたいと思います。レギュラーツアーを辞めるといって、2年目ですが、日本プロなどを見ると出場したいという想いはむしろ出場していたときよりも強く感じました。そうした気持ちもあるので、早く会長を辞めてレギュラーツアーに復帰したい!?と(笑)。

― 3期6年、重責を引き受けて道半ばといいますか、まだ4年半以上あります。6年目はちょうどオリンピックの2020年に…

 そう!僕はオリンピックの年の3月で退任しますから、オリンピックの時には居ないのですが、それまでに出来ることを全てやり遂げたいと思いますので、是非、一緒に沢山のお力添えを賜れたら幸甚だと思います。