ヨネックスレディスゴルフトーナメント
地域密着トーナメントを探る
ヨネックスレディスが追い求める
地域密着トーナメントの理想とは
女子ツアーのヨネックスレディスゴルフトーナメントが、主催企業の創業の地である新潟で開催されるようになって19回目を迎えた。これまでも地域に根ざした大会として継続されてきたが、昨年からは地元自治体の長岡市が「共催」として名を連ね、地域密着の度合いがさらに高まっている。地域の人に愛されるゴルフトーナメントは、どのようにつくられ、どのように成長していくのだろうか。
ギャラリーの9割近くがリピーター!
“オラがトーナメント”の意識高く
現在のヨネックスレディスがスタートしたのは1999年のこと。前年まで続いていた別のトーナメントの開催が難しくなり、ピンチヒッター的にヨネックス(株)が主催者になったことが始まりだ。それ以前に横浜CCを会場に同トーナメントを主催した経験があったこと、1996年には新潟に自社経営のヨネックスCCをオープンさせていたこと、同時期に男子ツアーのヨネックスオープン広島を開催していたことなどから、LPGAとしてはヨネックス(株)のトーナメント運営能力に期待したのだろう。
ヨネックス株式会社執行役員国内ゴルフ営業統括・山本美雄氏は言う。
「ヨネックスCCは日本海沿いにあり、周辺には海水浴場が多くあります。当時は8月の最終週の試合で、その時期はお盆を過ぎて海水浴が終わりひっそりしてしまうわけです。ですから、その時期のお祭り的なイベントになればということで、地域の人達に積極的に参加いただくようにしました」
当時、女子トーナメントのテレビ視聴率は2%くらい。これでは宣伝的な意味合いはあまり期待できない。それならば地域に恩返しすることを大きなテーマとし、当初から地域密着を強く意識したトーナメントをスタートさせようと考えた。
第1回目から地元長岡市寺泊地区(旧三島郡寺泊町)の商工会の協力が得られ、ギャラリープラザには日本海産の海鮮食材などを使ったブースが数多く出店したという。現在も大手イベント業者は出店せず、地元業者ばかりが並ぶ。「ヨネックスレディスの食事はおいしい」と、全国のトーナメントに足を運ぶ関係者にも評判になっているという。
また、毎年トーナメント開催日が近づくと、コースにつながる道路脇に、開催を知らせる沿道旗がはためく。それは主催者ではなく、地元商工会が独自に設置しているものだ。
「19回もやっていると、お客さんの85%以上、じつに9割くらいの人がリピーターなんです。開催10回目くらいまではギャラリーがなんとなく“お客さん”的な感じだったのですが、それを過ぎたあたりから “自分たちのトーナメント”なんだというふうに変わってきたように感じます」(山本氏)
事実ヨネックスレディスの入場者数は、常に1万2000人前後で推移する。また、ボランティアスタッフも毎回600人前後は確実に集まるし、近隣高校のゴルフ部員などがボランティアキャディとして活躍もしている。
これは主催者として、非常に運営しやすい環境の一つとなっている。
プロさながらの体験ラウンドなど
工夫の意図が見える関連イベント
一方、地元長岡市は、ヨネックスレディスのスタート当初から「後援」として大会をバックアップし、優勝賞品として「長岡産コシヒカリ」を提供するなどしてきた。
しかし2016年からは「共催」となり、大会への協力金も支出するようになった。市として、これまで以上にさまざまな大会関連イベントなどに関わるようになっている。
長岡市市民部スポーツ振興課課長・川上英樹氏に聞いた。
「長岡市としてはこれまでも市民のスポーツ振興のため、ヨネックスレディスをその機会の一つとして捉えてきました。昨年からは共催となり、さらにもう一歩進んでスポーツ振興、ジュニア育成、地域密着という側面を強く打ち出していこうとしています。特にジュニア育成に関しては、ゴルフに限らず様々なスポーツでの競技力向上に力を入れていて、いくつかの種目で全国トップクラスのジュニア選手も現れてきています」
そもそも長岡市には、子どもたちに「本物」や「一流」といったものに触れる機会を多く作っていきたいという考え方がある。かつて戊辰戦争で町が焼け野原になったとき、長岡藩の支藩である三根山藩から救援のために贈られた米をすぐに消費せず、学校をつくる資本にしたという有名な『米百俵』の精神が今も引き継がれているのだ。
長岡市がヨネックスレディスを共催するようになって、いくつか新しい動き、イベントが生まれてきている。
まずジュニア向けには「体験ラウンド」がある。他トーナメントでもジュニアによる体験ラウンドはよくあるが、ヨネックスレディスの体験ラウンドはひと味違う。本戦の最終日、INスタート最終組の1番ホールスタート直後に、まだギャラリーも大勢いるなか、プロと同じセッティングで4ホールが行われるのだ。
ジュニア1人に大会用キャディツナギを着たキャディ1人(選手の父親ら保護者)が付き、スタートアナウンス、選手紹介ビジョン、キャリングボードの同行まで、プロさながらのプレー体験ができる。
スタートホールにはLPGAの小林浩美会長や樋口久子相談役も控えており、記念撮影も行われる。ジュニアにとって忘れることのできない体験になると同時に、子ども以上に保護者も喜ぶ体験ラウンドになっていた。
また、近隣の小学生を招待し、トーナメントの「社会科見学」も行っている。これはグリーンキーパーの仕事やテレビ中継スタッフの仕事、ボランティアの仕事など、大会を支えるバックグラウンドを見て回るツアーだ。プロスポーツの現場がどのように運営されるのかを目の当たりにし、子どもたちにとっては将来の職業選択の大きな参考になるはずだ。
一般向けの面白い取り組みの一つとしては「長岡市民プロアマ大会」もある。通常のプロアマとは違って大会開催週の前の日曜日に行われるもので、マンデートーナメント参加プロと長岡市民から募集したアマチュアが一緒にプレーする市民限定プロアマ戦だ。
地元のゴルフ愛好家にとってはプロゴルファーから直接指導を受けられる絶好の機会となるし、本戦プロアマに出場しない若手プロにとっては、ファン対応のいい勉強の機会になるだろう。
賞金総額も増額
共催を機に、市が大会へ協力金を出すようになったことに加え、8社の地元企業が協賛企業として名を連ねることにもなった。これにより2016年から賞金総額が従来よりも1000万円増額された。
賞金額がアップすればこれまで以上にトップ選手たちが挑戦しがいのある大会になり、よりエキサイティングな優勝争いが増えるだろう。さらにギャラリーも増えていくに違いない。これも共催の大きな効果の一つと言っていいだろう。
長岡花火のように地域に根付き
愛され続けるイベントが理想の姿
近年、長岡市はスポーツ振興に力を入れている。
プロ野球独立リーグ・新潟アルビレックスBCに練習拠点を提供したり、市民交流の拠点「シティホールプラザ アオーレ長岡」をプロバスケットBリーグ・新潟アルビレックスBBのホームコートとして誘致したりするなど意欲的だ。
「長岡市としては、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年を契機に、より一層のスポーツ振興をはかっていきたいという動きがあります。オーストラリアの競泳チームの事前キャンプの誘致も決まっています。地元のジュニア選手との交流も期待でき、レベルアップにもつながるはずです」(川上氏)
様々な角度から地元のジュニアたちの可能性を伸ばしたいという市の思いが伝わってくる。ジュニア育成も含めたスポーツ振興は、これからの地方創生の考え方の中で大事な部分を占めているという認識だ。
ここまで、ヨネックスレディスと長岡市との協力関係はとても良好だ。また、市民にすっかり受け入れられ、地域密着トーナメントとして基盤も固まっている。今後、同トーナメントがさらに盛り上がっていくためには何が必要だろうか。
「新潟からは若林舞衣子プロ以来、地元出身プロが出ていません。いま注目されているアマチュア選手が何名かいますが、彼女たちがプロになって活躍してくれればさらに盛り上がっていくと思います」(山本氏)
「ゴルフだけに特化すると元々ゴルフに感心のある人しか集まりませんから、関連イベントに複数のテーマ性を持たせ、たまたまゴルフ観戦とは違う目的での来場者がゴルフに興味を持つような仕掛けがあると新規開拓もしやすいかもしれません。我々もスポーツイベントを行うとき、別のテーマ性を持ったものとのジョイントを積極的に考えています」(川上氏)
両者が力を合わせ、さらには地元の人たちの熱い応援が加われば、ヨネックスレディスをさらに盛り上げていくことが可能だろうし、ひいてはゴルフというスポーツをさらに広めていくことにもつながるだろう。
毎年8月、長岡市では有名な日本一の花火大会「長岡まつり大花火大会」が開催される。この花火は地元企業や地域の人たちから寄せられる多くの協賛金によって打ち上げられている。
「長岡花火のように地域に根付いて、いつまでも地域の人に愛されるゴルフトーナメントにしていきたい」(山本氏)
これこそがゴルフトーナメントの理想の姿かもしれない。
<大会結果>
- 青木瀬令奈選手が、通算4アンダーで悲願の初優勝に輝いた。
- 大会第1日が荒天のため中止となり、36ホールの短縮競技となったため、LPGA規定により賞金配分と加算賞金は賞金総額の75%となった。
- ヨネックス(株)と長岡市協賛企業8社は賞金総額7,000万円の25%(1,750万円)をLPGAを通じて熊本地震復興支援のためにチャリティーした。