リオ五輪男子ゴルフ競技を見て

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112年ぶりに夏季五輪の正式競技に復活したゴルフ競技。その男子競技の3日目と最終日の会場の様子を視察した。結果としてはこれまでの海外メジャーを代表とするゴルフトーナメントの良さを踏襲しつつも、オリンピックならではのスタイルをうまく融合させていると感じた。大会運営全般とメディア対応などについてレポートした。

株式会社フレンド企画 渡辺裕之/写真提供:IGF

1.運営主体について

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IOCのもとにIGF(世界ゴルフ連盟)が統括団体となり、NOC(National Olympic Committee)であるブラジルオリンピック委員会の実施主体により運営されていた。2014年に日本で開催された世界アマゴルフ同様に、このIGFにはプロパースタッフの他にR&Aの主要スタッフらも協力スタッフとしてこの期間現地に派遣されており、メディア対応セクションについてはR&Aの広報責任者であるマルコム・ブース氏がIGFヘッドメディアサービスとして全体指揮をしていた。そのような指揮のもと、実際の各現場のスタッフは現地の運営会社スタッフとボランティアによっての運営がなされていた。

ゴルフ会場におけるボランティアの数は1日あたり約300人。各組に3人〜4人(キャリングボード、スコアラー等)帯同する他、各エリアや観戦エリアにも配置されていた。

2.会場到着〜入場まで

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BRTゴルフオリンピカ駅から入場ゲートまでは約300m程度、ボランティアスタッフの誘導によりゲートへ。フェンスで区切られた通路を通り、まずはセキュリティ検査ブースへ。ここは手荷物のある人と手ぶらの人とでレーンが分かれていて、効率よく検査ができるようになっていた。スプレーや液体物は場内へは持ち込めない規制となっていた。その後、チケットチェックブースを通過。チケットに記載されているバーコードを係員がスキャンで読み取るシステム。組合せ表は入場ゲート先でスタッフが配布していた。

3.ギャラリープラザ、 飲食販売、マーチャンダイズ販売

ギャラリープラザや飲食販売所は入場ゲート先に設置されていたが、かなり簡易的なもので、席数も100席程度。テントなどもなくそのままテーブル、パラソルが設置してあるのみだった。飲食販売ではビール、ソフトドリンクの他、ホットドックやブラジルスタイルのパンやスナック類が5種類程度とこちらも簡易的なものが主体であった。この他コース内に飲食販売テントが数箇所、ドリンク販売だけのパラソルが数箇所。オリンピックグッズの販売テントでは、マスコットのぬいぐるみやTシャツ、キャップ、マグカップ、キーホルダーなどオリンピック共通商品が主体であり、ゴルフ競技のみの商品はピンフラッグ(オリンピック柄)とピンバッチのみであった。汎用性重視なのか、在庫調整のためなのか、他の競技会場でも各種目のオリジナル商品はピンバッチくらいしかない様子であった。ちなみにキャップはどれも正面中央部分はわざとデザインが空けてあり。そこへ各会場ごとに販売されている「ベニューピンバッチ」をコレクションできるスペースになっていた。

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4.ゴルフファンゾーンエリア

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ギャラリー広場の一角にはゴルフの歴史をひもとく展示コーナーテント。そしてトップスポンサーであるブリヂストンが展開するパッティングチャレンジコーナー、レッスンブースでのワンポイントレッスンが行われていた。

5.観戦スタンド、トイレ、ホスピタリティ施設

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大きな観戦スタンドは1番ティーに約500席スタンド。18番グリーンサイドに約1200席スタンドが設置。この18番グリーン脇のスタンドは、ギャラリーが1万5000人来場した男子最終日には満席となり、入りきれないギャラリーが各入口に長い列を作り、規制入場されるまでの盛り上がりであった。このスタンドの一角には関係者席、メディア席として200席程度が専用席として確保されていた。一方のホスピタリティテントは18番グリーン奥に大きなテントの1箇所のみ配置され、サービススペースの他、観戦席として18番グリーンに向かって階段状にスタンド席形式の設えであった。国内ではテントのテラス部分に数十席程度しか配置がない場合も多いが、このスタンド席形式では一度に多くの方が長くゆっくり観戦できるスタイルとして大いに参考になった。

トイレはコンテナ設置タイプ。男女に分かれているものの内部はすべて洋式個室スタイルで男性小用の形式はなかった。この他、車椅子用のスロープつきのコンテナもあり。

6.運営内容

IDコントロールは、パスに様々な種別の略号が用いられ識別されていた。

大きく身分を証明する記号としてIF(各競技連盟)、NOC(各国のオリンピック委員会)、S(セキュリティ)、E(ジャーナリスト)、EP(カメラマン)などの記号があり、さらにメディアの中でも各種目の専門誌などの専門メディアはこれらの略号の脇にs(スペシャル)と記載され、Es(その競技専門のジャーナリスト)もしくはEps(その競技専門のカメラマン)との識別となっていた。この他、実際に入場にあたっての識別としては、身分により各競技場に入れる/入れないが細かく分けられていて、どの競技場にも自由に入れる方はALL 、ゴルフ会場のみの方はGO、オリンピックパークの体育館・カリオカアリーナ1の場合CA1などと入れる会場が表示されていた。

さらに各競技場内で立ち入り出来る/出来ないのエリア分けとしては数字による表示もあり、4はメディアセンターやインタビューが出来るミックスゾーンなどメディアが入れるエリア、5は放送などのスタッフが入れるエリアなどと数字でも立ち入り可能エリアの表示・識別が行われていた。この識別システムはオリンピックでのすべての共通コードであり、どの種目でもどの会場でも共通の統一された運用規制が行われていた。

この他にカメラマンにはビブスが複数の色別で配布され、オフィシャルスチールカメラマンは緑色、国際映像テレビクルーは青色、一般カメラマンは茶色などと分かれていた。記者同様にこの色によって撮影できるポイントが異なり、特に最終日の18番グリーンサイドや表彰式では、撮影ポイントが規制されていた。但し、IGF GOLFのクレジットを入れればメディアが自由に使える代表写真が専用サイトからダウンロードできることになっており、一方ではその写真を自由に活用できるという環境も作られていた。

ボランティアや運営スタッフのIDパスには、I SPEAK ENGLISHというタグを付けたスタッフもいて、より来場者に親切な対応が見られた。

7.競技進行について

通常のメジャー大会と違うスタイルとして注目されたのが、各組のスタートコール。テレビでご覧になった方も多いと思われるが、まずその組の選手3名を一度に紹介。

その後、選手が順に打っていく形であった。この他通常のトーナメントにないものとして興味深かったのは、「ゴールドメダルプレーオフ」と「ブロンズメダルプレーオフ」。それぞれ1位と3位を確定させるためのもので、プレーオフのレギュレーションが特別に設定されていた。結果的には男子も女子もこのプレーオフは行われなかったが、オリンピックならではのものとして象徴的であった。

8.ビクトリーセレモニー

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同じくオリンピックならではと感じたものが表彰式セレモニー。いわゆるメダル授与式である。セレモニー開始前には18番グリーン脇に特設の国旗掲揚台が設置され、グリーン上には1位から3位までの選手が登壇する表彰台が設置されるという、普段のゴルフ競技では見られない光景であった。選手がホールアウトしてからセレモニー開始までの間はギャラリーが退屈しないように、ノリノリのダンスミュージックがかけられ、気分を盛り上げる演出など随所に工夫がされていた。

9.ギャラリーの観戦の様子

ゴルフに限らず、オリンピックではどの競技でも写真撮影の規制をしないという方針もあり、ゴルフ場内での厳しい写真撮影規制は行われていなかった。(ただし、選手のスイングの際は撮影しないよう協力を求めていた。)ゴルフがまだまだこれからのスポーツであるブラジルでは、はじめてゴルフ観戦をするギャラリーも多く、観戦マナーの周知がなかなか進まなかったようだが、最終日になるころにはギャラリー同士で注意しあうなどの光景も見られ、ゴルフ競技の啓蒙というオリンピックの目的も大いに感じられる場面であった。

この他オリンピックならではとして印象的だったことがある。選手個人の応援はさることながら、自国応援を意識した声援が多かったこと。ゴルフを知らないギャラリーも家族揃って自分の国の国旗やフェースペインティングでアピールしたり、その国のイメージカラーで全身を着飾ったり、思い思いのスタイルで自国を応援する光景が目についた。

一生懸命に自国の国旗を振って応援しているギャラリーにその選手のファンか聞いてみたところ、「ゴルフを見るのは初めて、この選手も自国の代表とは知っているが、名前は今日初めて知った。でも自分の国の代表選手だから、知らなくても応援するんだ。」と言って教えてくれた。どの競技かに関わらずオリンピックでは自分の国のすべてのアスリートを応援するという姿勢が、より一層オリンピックらしさを印象付けたシーンとなった。会場内の電光掲示板では、選手の紹介の他に、プレーの合間にはゴルフの歴史にまつわる3択クイズも放映されており、退屈させずにゴルフのマナーや歴史を楽しく学べる工夫がされていた。選手のプレーにあわせてタイムリーに「お静かに」と表示されたり、各種マナーの啓発も同時に行われていた。

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10.メディアセンター

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メディアセンターは、多くの海外メジャーに比較すると一回り程度小さい大きさのテントであり中の様子もかなり簡素な感じという印象であった。席数は270席あるが、スクール形式ではなく、向かい合わせのテーブルがいくつもあり、席は指定席制ではない全席フリースペース。カメラマンも同じスペースで一緒の作業となっていた。これはいわゆるオリンピックのメディアセンターとしてMPC(メインプレスセンター)がオリンピックパーク内にあり、これら各競技場のメディアセンターは一時的な出先のワークルームという位置づけによるものと推察される。よって、席も決められた指定席ではなく、誰でも自由にやってきて作業できるというワークスペースになっていると思われる。この他には、テレビモニターが室内に8台程度。スコア用のプロジェクターが2基。貸出し用のロッカーは120ケ。

配布資料は最小限の資料にとどまり、あとは各記者に配布されたオリンピックメディア共用のサイトから各種情報を仕入れるスタイルであった。とはいえ、国内大会やメジャーなどの大会に比べても提供資料は少なく、あまり積極的に情報提供が行われている様子ではなかった。インタビュールームはメディアセンターの奥に配置あり。

メディアホスピタリティとしては、コーヒー/ティサービスがある程度で、飲食はメディアセンター内に設置された売店コーナーで購入するシステムであった。(ギャラリー用と同じメニュー・価格で販売)これらは会場内での販売権利を持っている業者が権利を使って独占展開している理由からと推察される。

11.オリンピックのゴルフとして感じたこと

オリンピックにおけるゴルフ競技としては、これまでのメジャーをはじめとするゴルフイベントの良さやスタイルを踏襲しつつも、そこへオリンピックならではのものをうまく融合させて、新たな「オリンピックゴルフ」というスタイルを確立していたと感じた。今回のリオオリンピックが現代のゴルフ界における壮大な実験であるならば、次の東京大会はその「オリンピックゴルフ」というスタイルをさらに昇華させ、確立させるべく重要な大会になると考える。さらにそこへ「日本のゴルフ」ならではの良さを織り込み、融合させることが大きな成功のカギになると感じた。ひいてはそれが世界の新たなゴルフの進むべき道を切り拓くことに繋がると確信した。

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