昨季も今季も 過渡期にある米ツアー。 だからこそ、チャンス。
米ツアーの開幕時期が10月に変わって、すでに2シーズン目になる。初めて10月から開幕した2014年シーズンを振り返ってみると、昨季は実に話題が豊富な1年だった。
タイガー・ウッズ頼みのシーズンになりえないことは、ウッズが春先のホンダクラシックで背中痛を訴え、棄権したとき、すでに予想ができていた。結果的にはマスターズにも全米オープンにも出場できず、全英オープンで復帰してからも成績は振るわずじまい。
ウッズがプロデビューして以来、ウッズ頼みで成長拡大を遂げてきた米ツアーゆえ、ウッズの低迷はそのまま米ツアーの低迷につながると思われがちだ。しかし、そうならないところが米ツアーの舵とりの上手さであり、米ゴルフ界全体の懐の深さだ。
実際、昨季はエキサイティングな展開が多々見られた。マスターズではバッバ・ワトソンが
2着目のグリーンジャケットに袖を通し、“第5
のメジャー”と呼ばれるプレーヤーズ選手権を制したマーティン・カイマーがその翌月に全米オープンを圧勝。そして、全英オープン、WGCブリヂストン招待、全米プロを続けざまに制したローリー・マキロイが世界一の王座に返り咲いた。
全米プロのTV視聴率は、ここ5年間で最高の数字を記録した。ウッズ抜きでも米ゴルフ界の盛り上げ役が次から次に出現しているのは、米ツアーのみの功績では決してない。ジュニアを育て続けるAJGA(全米ジュニアゴルフ協会)、全米レベルでジュニアやアマチュアの大会を運営し続けるUSGA(全米ゴルフ協会)、ハイレベルな指導者を育成し続けるPGAオブ・アメリカ、大学ゴルフを統率するNCAAといったゴルフ関連団体が、優れたプロゴルファーを輩出できる土壌を整え、相互協力を重ねてきたことの賜物だ。そして、マキロイやカイマーといった欧州選手たちが米ツアーと欧州ツアー、双方のメンバーシップを維持しながら活動や活躍ができていることは、米ツアーと欧州ツアーが選手の利便を熟考した上で体制を整えてきたことの賜物だ。
もちろん、米ツアー独自の努力や工夫の成果も見られた。昨季のシーズンエンドのプレーオフ4戦では、ビリー・ホーシェルがラスト3週間で3つのトロフィーと総額14ミリオンを手に入れるという驚きの結末を迎え、同システムを導入した2007年以来、最高の盛り上がりを見せた。米ツアーはビッグな夢が叶う場所。努力すれば、無名選手もスターになれる場所。それが現実としてアピールできたことは、人々に夢を与えるプロゴルフツアーとして大成功だった。
「幸か不幸か」ならば「幸」にしたい
そもそも、なぜ開幕時期が従来の1月から
10月に変わったかと言えば、それは弱小フィールドで人気も注目も低かった10月からの
フォールシリーズを開幕シリーズという括りに変えて、ステイタスを上げるためだった。米ツアーは開幕時期を変更し、スケジュールや試合の格付けを変更し、それ以外にもさまざまな改革や改良を試みている過渡期にある。
日本の石川遼と松山英樹が本格参戦を開始したタイミングは、幸か不幸か、米ツアーのそんな過渡期と重なり、少なからずその影響を受けている。その1つは、ルーキー・オブ・ザ・イヤー受賞のチャンスが知らぬ間に過ぎ去ってしまったこと。米ツアーがルーキーの定義を変更したために、石川も松山も正式メンバーとして本格参戦を開始した年(石川の13年、松山の14年)には、どちらもルーキーではなくなっており、受賞のチャンスも終わってしまっていた。
だが、モノは考えようで、「幸か不幸か」ならば「幸」にすればいい。米ツアーが過渡期にあって、新しいことがたくさん起こる状況は、米ツアーに不慣れな新人や外国人とベテラン選手との差が縮まると思えばいい。新しい土俵の上では誰もが同条件。そう考えれば、過渡期の米ツアーにデビューした石川や松山は、むしろラッキーと考えることもできるのだ。
米ツアーは今季もシステムやスケジュール、いろいろな面で過渡期にある。2016年1月からロングパターが禁止になるため、今季はロングパター使用選手がレギュラーパターへ移行する過渡期にもなる。世界一の座はウッズからマキロイへ移行したけれど、マキロイの王座がウッズのそれのように長く続くかどうかは今なお疑問。マキロイ時代とまでは言い切れず、時代の移行も過渡期にある。
米ツアーは揺れ動く戦国の世。だからこそ
世界中の誰にも君臨するチャンスがある。その状況で米ツアーが広く世界に門戸を開くのは、他の国々に乗っ取られない自信があるからだ。世界各国から一流選手たちが集結する中、米ツアーを米国のツアーとして維持できるかどうかが米ゴルフ界の腕の見せどころ。そして、それこそが世界のゴルフファンにとっての今季の見どころになる。