舩越園子のWorld Golf FUN FAN REPORT
もはや米国と米ゴルフ界の宝
取材・文・写真/舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
米ツアーはすでに2016-17シーズンを迎えている。振り返れば昨季は目まぐるしい1年だったが、その目まぐるしさを生み出したものは、1つにはシーズンの真っ只中の8月に行なわれたリオ五輪に合わせて米ツアーのスケジュールが調整されたこと。だが、もう1つ、たくさんのモノゴトに大きな影響を及ぼしたものは、2年に1度の米欧対抗戦、ライダーカップだった。
米ツアーのシーズンエンドのプレーオフ4試合が、まず3試合を連続開催し、次に1週空けてそれから最終戦へという流れになったのは、選手たちがライダーカップで燃料切れにならないようにという配慮からだった。プレーオフ4試合を2試合、1週オフ、2試合という流れで行なえば、ライダーカップ出場選手の大半は3週連続の戦いとなる。だが、ツアー選手権の前週をオフにすれば、ツアー選手権とライダーカップの2試合だけの連続となるため、心身の消耗は抑えられる。つまりライダーカップは米ツアーのスケジュールを変えるほどの存在なのだ。
ライダーカップの直前にこの世を去ったアーノルド・パーマーの葬儀がライダーカップ終了を待って、その翌週に執り行われたのも「ライダーカップの邪魔をしたくない」というパーマーの遺族の配慮によるものだった。
ライダーカップウィークになると、大会の舞台となったミネソタ州ヘイゼルティンナショナルGC周辺の学校が休校になったという話に少々びっくりさせられた。ゴルフ関係者が詰め寄せ、道路も大渋滞して混乱するというのが理由だそうだが、「米国の名誉をかけたイベントだから観戦しなさいってことだろう」とは、地元の人々の言。
いざ、試合が始まると、選手たちのプレーを生中継するTV画面がCMのたびに分割画面になったのには、かなりびっくりさせられた。ここぞというところでCMを迎えると、画面が左右にほぼ2分割され、右側ではCM、音声もCM、しかし左側では音を消して生中継の画像だけを見せるという仕掛けだった。
「Playing Through」と銘打って行なわれたこの2分割画面の仕掛けは、CMに大金を払っているスポンサーが了承しない限り、成立しないものだ。ほぼ2分割の画面ゆえ、CMとライダーカップはスペース的には、ほぼ同等。すべてのCMではなく、ここぞという場面とCMのタイミングが重なった場合のみの実施だったようだが、それならなおさら視聴者の視線は左側の中継画面に釘付けとなり、右側のCMは誰も見ていなかったはず。
だが、それを受け入れるスポンサーも素晴らしいし、その仕掛けを企画し、スポンサーに提案し、了解を取り付けた広告代理店やTV局側の動きも素晴らしいと大いに感心させられた。
選手が「変わり」「変えた」もの
そんなふうに、たくさんのことがライダーカップの影響で変わり、しかもその変化がライダーカップを考慮して自ら変わったものであるところにライダーカップのカリスマ性を感じずにはいられない。だが、もっと素晴らしいのは、選手たちの熱意がもたらした大きな変化だった。
2年前の前回大会で大敗を喫した米国チームの面々の中で、自分たちがドラスティックに何かを変え、変わる必要性を声を大にして叫び始めたのはフィル・ミケルソンだった。彼は当時のキャプテンだったトム・ワトソンの采配に不満と異議を申し立て、タスクフォースなるアドバイザリー組織を作って2016年大会に備えることを提案。前回大会から2年間、戦略戦術を練り上げてきたタスクフォースは今年、米国を8年ぶりの勝利に導く結果になったが、もしも今年、再び大敗を喫していれば、タスクフォースもミケルソンも批判の矢面に立たされていただろう。
そう、ミケルソンは自分自身の立場や名声を失うリスクを省みず、選手生命を賭けてアクションを起こしたと言っていい。ミケルソンの提案を受け、タスクフォースと米国チームを優勝へと導いたキャプテン、デービス・ラブの実行力と努力と勇気も賞賛に値する。
ミケルソンもラブも以前から人望のある選手だが、今年のライダーカップを経て2人の評価は今まで以上に高まった。そんな2人を中心に力を合わせて戦った米国選手たちのチームワークはライダーカップ史上最強。彼らの熱い戦いぶりに沸いたアメリカ国民の熱狂ぶりも過去最高だったのではないだろうか。
大会終了の翌々日。パーマーの葬儀に参列したリッキー・ファウラーが欧州から奪還したばかりのライダーカップを腕に抱え、祭壇に捧げた姿が印象的だった。その傍らに伴っていたバッバ・ワトソンとミケルソンの感慨深げな表情も忘れられない。
これほどまでに何もかも一色に染め尽くせるものは他にない。ライダーカップはゴルフの大会を超え、お祭りを超え、現役選手も引退した選手も、出場選手も出場できない選手も、いやいやゴルフ界をも超越した存在になっている。もはやライダーカップは米国と米ゴルフ界の宝だ。