舩越園子のWorld Golf FUN FAN REPORT

モナハン会長率いる米ツアーの新しい世界

取材・文・写真/舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

昨年から今年にかけて、欧州ツアーが次々に着手している斬新な新施策が話題になっている。その旗振り役は欧州ツアーCEOのキース・ペリー氏だ。ちょうど1年前のこのコーナーでも欧州ツアーが独自に導入したスロープレー対策やドレスコードの話をご紹介したが、ペリー氏はその後も続々と新施策を打ち出している。

ストロークプレーとマッチプレーを組み合わせた「ワールド・スーパー6」が今年2月にオーストラリアで開催されたかと思えば、世界16か国からの代表選手が2人1組で戦う「ゴルフシックス」なる新大会も今年5月にロンドン北部で開催が予定されている。

昨年まではレース・トゥ・ドバイのシーズンエンドに3試合のファイナルシリーズを行なっていたが、今年からはシーズン全般から選んだ8試合によるロレックスシリーズを開始。2018年は10試合へ拡大する見込みだ。

さらにペリー氏はナイターゴルフを採り入れた大会の開催も考えているそうで、欧州ツアーの改革は留まるところを知らない。

欧州ツアーは革新的。米ツアーは新旧混合。

そんなふうに、たくさんのことがライダーカップの影響で変わり、しかもその変化がライダーカップを考慮して自ら変わったものであるところにライダーカップのカリスマ性を感じずにはいられない。だが、もっと素晴らしいのは、選手たちの熱意がもたらした大きな変化だった。

2年前の前回大会で大敗を喫した米国チームの面々の中で、自分たちがドラスティックに何かを変え、変わる必要性を声を大にして叫び始めたのはフィル・ミケルソンだった。彼は当時のキャプテンだったトム・ワトソンの采配に不満と異議を申し立て、タスクフォースなるアドバイザリー組織を作って2016年大会に備えることを提案。前回大会から2年間、戦略戦術を練り上げてきたタスクフォースは今年、米国を8年ぶりの勝利に導く結果になったが、もしも今年、再び大敗を喫していれば、タスクフォースもミケルソンも批判の矢面に立たされていただろう。

米ツアーを率いるジェイ・モナハン新会長は46歳の若いリーダー

米ツアーを率いるジェイ・モナハン新会長は
46歳の若いリーダー

革新的な欧州ツアーと比べると、最近の米ツアーは保守的すぎるのではないか?そんな批判が囁かれる中で米ツアー会長に就任したのがジェイ・モナハン氏だ。

前任のティム・フィンチェム会長は米ツアーに目覚ましい拡大成長をもたらした。モナハン氏は、そんなフィンチェム時代の終盤を彼の右腕として間近に眺めながら、自身が切り開いていくべき新たな時代の方向性を静かに模索してきた人物だ。

それゆえ、モナハン会長のこれからの歩みは、フィンチェム時代にメスを入れたり逆光したりという方向ではなく、フィンチェム時代に築かれたものを土台として、その上に新たな何かを積み上げていく形になりそうだ。

その1つとしてモナハン会長が掲げているのは、米ツアーのファンをグローバルに拡大していくという目標だ。米国内のファンづくりの基盤はフィンチェム時代に作られ、そのおかげでテレビ中継が大幅に拡大され、スポンサーが増え、賞金が増え、ツアーそのものが拡大された。

モナハン時代はそれを米国外へ、とりわけアジアへ拡大していくことを急務と考えている。米ツアーのアジア支社が東京に創設されたり、来季から韓国で新大会が開始されたりという動きは、アジア市場拡大のための具体策と言える。

ところで「2018年からはツアー日程が大幅に変更される」という話は、すでに関係者や米メディアの間で取り沙汰されている。

“第5のメジャー”、プレーヤーズ選手権を現行の5月から以前の3月へ戻し、8月の全米プロを5月へ動かせば、プレーヤーズが3月、マスターズが4月、全米プロが5月、全米オープンが6月、全英オープンが7月となり、メジャーとメジャー級の5大会が毎月1試合ずつ連続開催されることになる。

米ツアーのメディアオフィシャルは「まだ構想段階にすぎない」と念を押しながらも「そうなればエキサイティングな時期が醸成されるだろう」と期待を寄せている。別のオフィシャルは「46歳のモナハン会長の下でツアーにもエネルギーが漲っている」と、全体的な若返りに期待している様子だ。

継続ではなく新規にモナハン会長が独自で行おうとしている施策の代表例は、米ツアー独自のテレビジョン・ネットワークを立ち上げるというもの。これが実現すれば、ツアー日程に自由と可能性が広がり、スポンサーの獲得も有利になるであろう。

今年のファーマーズ・インシュアランス・オープンの練習日は モナハン新体制の社交場になっていた

今年のファーマーズ・インシュアランス・オープンの練習日は
モナハン新体制の社交場になっていた

そして、大きなモノゴトが進んでいくとき、時代の流れというものは決して無視できない。フィンチェム時代はタイガー・ウッズとともに歩んで拡大成長を遂げたが、モナハン時代はどんな潮流に乗っていくのか。

そこで考えられるのは、ドナルド・トランプ大統領が率いる新時代だ。モナハン会長自身、「ホワイトハウスに熱心なゴルファーがいるのは、とてもいいこと」と語っている。

昨年、大統領選に名乗りを挙げたトランプ氏の過激発言に眉をひそめ、ゴルフ諸団体は一斉にトランプ所有コースを大会の舞台から外していった。米ツアーもキャデラック選手権の舞台だったトランプ・ナショナル・ドラールから離れ、今年は装い新たにメキシコ選手権になった。

だが、1962年から大会を開催してきたドラールは米ツアーの歴史の1つでもある。「ドラールを離れることは、一緒に歩んできた大勢のボランティアやファンからも離れることになる」と考えるモナハン会長は、再びドラールに大会を戻すことも考えている。

フィンチェム時代から受け継いだ財産を活かし、新たな施策を育み、時代の潮流に乗りながら拡大成長を目指していく。

そんなモナハン率いる米ツアーは、革新的な欧州ツアーとは少し異なる新しい世界になりそうである。