舩越園子のWorld Golf FUN FAN REPORT
夢の世界だからこそ、気を引き締め、
魅せるゴルフを心掛ける
文・写真/舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
タイガー・ウッズやフィル・ミケルソンはルールを活用した逸話を多々作り出したルール通だ
米ツアーはすでに新シーズンが始まっている。振り返れば昨季は充実の1年だった。メジャー4大会だけを見ても、マスターズではセルジオ・ガルシアが悲願のメジャー初優勝を遂げ、全米オープンではブルックス・ケプカが大混戦を制してメジャー初優勝。全英オープンではジョーダン・スピースが早くもメジャー3勝目を挙げ、全米プロでは単独首位に立った松山英樹を逆転したジャスティン・トーマスがメジャー初優勝を達成した。
松山の惜敗は、とても悔しい結果だったが、悔し涙を目にいっぱい溜めたまま目の前で胸中を語った松山の姿には、今後のさらなる成長をすぐさま予感させられた。
そんな意味も含めて、昨季のメジャー4大会は、どれもいい大会だった。メジャーのみならず、世界選手権も米ツアーのレギュラー大会も、1つ1つにドラマがあった。
その“ドラマ”の中で、昨季は例年以上にルールにまつわるドラマが目立った。全英オープン最終日にスピースがドライバーショットを大きく右に曲げた後、そこから後方へどんどん下がって練習場からショットした出来事は「最もフラットでグッドなライは練習場だ」と発想を転換し、アンプレアブルの処置、つまりルールを逆に活用したスピースの機転であり、ルールにまつわる“いい話”、いわば武勇伝のようなドラマだった。
だが、その一方で、昨季は選手が「ルール委員を呼びすぎる」ことが、プレー進行を遅くする大きな原因となっていることも含めて、あらためて問題視された。
折りしも、昨年は春先に新ルールの提言がR&AとUSGAから出され、8月末までは広くフィードバックを募っていた。新ルールは難解な現行ルールをシンプル化、近代化し、スロープレーを減らすことが最大の目的とされており、2018年半ばに正式発表、2019年1月1日から施行の予定。昨季はその過渡期ゆえ、「選手たちもルールに過敏になっている」という見方もあったが、「ルール上の判断や処置をルール委員に頼り過ぎだ」と選手の勉強不足を嘆く声も米ゴルフ関係者やメディアの間から上がっていた。
プレジデンツカップではルール絡みの珍事が立て続けに起こった。世界選抜のアニルバン・ラヒリは、バンカーからのショットをその場でもう1球“練習”してしまい、そのルール違反を次ホールのティショット後に指摘されて「そのホールは失格」となり、ロープ外へ出された。
翌日には12番で世界選抜のジェイソン・デイがバーディーパットを沈めた後、ルイ・ウエストヘーゼンのイーグルパットがカップを越えて転がっていく様子にギャラリーが「行け行け!」と激しく野次り、不憫に思った米国選抜のスピースがそのボールをパターで止めた。が、相手のボールを止める行為はルール違反で「そのホールを失う」ため、12番は世界選抜の勝利となった。
すると世界選抜の2人は「僕らのために止めてくれたのに、おかしい」とルールの裁定に反論し、「13番を米国選抜にコンシードしたい」と申し出た。スピースはそれを断り、13番は通常通りにプレーして引き分けた。
「スポーツマンシップを無にするルールはおかしい」「ルールに反論する形でコンシードなど、もってのほか」等々、いろんな意見が出たが、スピースを含めた選手たちが「相手のボールを止めちゃいけないの?」と首を傾げた様子に首を傾げた関係者は多かった。
もちろん、マッチプレーにはストロークプレーでは遭遇することのない特殊な状況やルールがあるため、選手たちもすべてを知っておくことは難しいだろう。しかし、アマチュアでも誰でも知っている基本中の基本のルールに違反した欧州ツアーのこんな話もある。
アルフレッド・ダンヒル・リンクス選手権の初日の18番で英国出身のデビット・ハウエルがティショットを打った後。その日がハウエルのバッグを担ぐ初仕事だった新キャディは「今のショットはティマークから出ていた」と勇気を出してボスに告げた。ハウエルは2罰打を食らったが、「キャディ自身の懐も痛むこと。なかなかできることじゃない」と新キャディに絶大なる信頼を寄せたそうだ。
人々に夢をもたらすプロゴルファーは、どんなときも最大限、素敵なドラマを披露できるよう心掛けてほしい。ハウエルのルール違反はプロとしては不注意だったが、キャディを讃えたことでドラマは美しい結末になった。
昨季はフィル・ミケルソン、ローリー・マキロイ、ジェイソン・デイが次々に長年の相棒キャディとのコンビを解消し、それを淋しく感じたファンは少なくなかった。一流のトッププレーヤーたちには、ゴルフルールへの向き合い方、キャディとの関わり方、何においても人々の手本であってほしい。
すでに開幕している新シーズンは昨季より2試合が増え、年間合計49試合。年間の賞金総額は史上最高の3億6300万ドルを上回り、400億円近い巨額となる。大きなお金が動くプロゴルフ界は夢の世界。だからこそ、選手も関係者も誰もが気を引き締め、人々に魅せるゴルフを心掛けていきたい。