GTPA海外トーナメント研修

SOLHEIM CUP&WYNDHAM CHAMPIONSHIP視察

星条旗カラーをまとう大観衆の「USA!」コールが止まらない。欧米対抗戦、ソルハイムカップは15回目の開催となり、空前の盛り上がりを見せた。この大会を支えるUSLPGAとUSPGAレギュラーツアー最終戦ウィンダム選手権の裏側をレポートする。

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“女子のライダーカップ”と呼ばれる名誉をかけた団体戦ソルハイムカップ。12万4426人の大観衆を集め、USLPGA史上最大規模の大会は熱狂のうちに終わった。メジャー7勝57歳の今でも現役でプレーするジュリ・インクスター主将率いる米国チームが、かつてのロレックスランクNo.1アニカ・ソレンスタム率いる欧州チームを下し、10回目の勝利をおさめた。

その熱い戦いの裏側でUSLPGAの現状と今後の展望を聞いた。1950年に設立されたUSLPGA(全米女子プロゴルフ協会)は、現在、フロリダ州に本部を置いている。そのグローバルな展開に伴い、カリフォルニア州、アリゾナ州、アイオワ州、アジア(韓国)に支局があり、約125名のスタッフが勤務している。

ブライアン・キャロル氏

ブライアン・キャロル氏

まず、テレビ関係について、担当者であるブライアン・キャロル氏(Brian Carroll /Senior Vice President Television &New Media)に話を聞いた。

2年に1度の決戦であるソルハイムカップの放送は、開催地側のツアーがそれぞれ仕切っている。USLPGAと専門局であるゴルフチャンネルとは年間契約を直接、結んでいる。日本とは違い、基本的に放映権はすべての試合でツアーが保持している。中継局から放映権料がツアーに支払われる形態だ。アメリカ以外での放送についても基本的には同じだが、中には例外もある。欧米選手しか出場できないソルハイムカップを、他で放送する場合などに無償の場合がある。ちなみに、日本で直接、LPGAと契約を結んでいるのはWOWOWである。

ミーティングでは様々な質問が飛び交った

ミーティングでは様々な質問が飛び交った

開かれた世界最強のツアーとしての歴史を持つUSLPGAだからこそ、ともいえるのだが、アジア勢、特に韓国勢の台頭が目立つ現状がある。これは誰もが認めるところだが、そのあおりとして米国勢が目立たなくなってしまっている。そのことは視聴率に影響しないのだろうか。キャロル氏の答えは、意外にも「No」。理由としては「アメリカでの視聴率が下がっても、その分韓国では上がるのであまり問題ではない」というグローバルな視点に立ったものだった。

ギャラリーへの対応を含めた、選手との関係はどうなっているのだろうか。それについて話してくれたのは、各トーナメントと外部との折衝を行っているセクションの責任者、リッキー・ラスキー氏(Ricky Lasky /Senior Vice President Tournament Business Affairs & LPGA Properties)だ。

スマートフォンの普及やSNSの広がりなどで、近年どのツアーでも扱いが難しくなっている写真撮影についての考え方は、比較的ゆるやかなようだ。プロアマ、練習日はOKで、本戦中は禁止というルールは日本と変わらない。それでも、見かけたら注意するという程度にとどめている。今回、視察したソルハイムカップでも、ギャラリーがスマートフォンをかざして撮影する光景は当たり前のように見られた。後述するが、PGAツアーは翌週から本戦も撮影可になることを決定していた。当然、USLPGAもその情報は持っており「将来的には同様にしたい」とのことだった。ファンあってのツアーであり、フェイスブックやインスタグラムなどのSNS利用が当たり前の現在、そこからの広がりは必須。そのあたりを十分理解し、将来的な展望を持って対策を考えていることが伝わってきた。

リッキー・ラスキー氏

リッキー・ラスキー氏

7月に発表され、世界中のゴルフファンを驚かせた新しいドレスコード(ミニスカート、ショートパンツはいかなる時もボトムエリアが隠せる長さ、など詳細にわたる厳しいもの。いわゆるセクシーウェアを規制しているとして物議をかもしている)についても、詳しい経緯を聞くことができた。新ドレスコードの提案は、実は選手サイドから行われたものだったというのだ。

新ドレスコードは、ファンや関係者の間ではツアー側からの規制だと思われていたが、決してそうではなく、選手ディレクターからの提案だったと言うのだ。「選手のアスリートとしての意識から生まれた規制」とのことだった。過剰なまでにセクシーさを強調する傾向にあった選手たちの装いに、同じ選手の側からストップがかかった自粛と言い換えてもいいだろう。

対スポンサーという点で大切なプロアマやその前夜祭については、USLPGAでも力を注いでいる。全試合で行っており、年間1/3に選手は参加しなければならない義務がある。違反すれば罰金だ。選手側の意識が非常に高く、例えば、レキシー・トンプソンなどはほぼ全試合に出席しているほどだ。つまり、義務である1/3だけに出ている選手ばかりではないため、成り立っているルールであるとも言える。

選手とゲストがうまくコミュニケーションを取るための工夫もなされている。卓球コーナーやバーテンダーブースなどに選手が入るようにして、ゲストとうまい具合に触れあうことで、満足度を高めている。

プロアマ競技にも賞金が出るが、これは選手の懐には入らずジュニア育成など、チャリティ活動に使われている。また現在11月にTOTOジャパンクラシックを日米両ツアーが共同開催しているが、「もう1試合増やしてもよい」と、両ツアーの関係強化には積極的であった。

ヘザー・デイリー・ドノフォリオ氏

ヘザー・デイリー・ドノフォリオ氏

競技そのものの統括責任者、ヘザー・デイリー・ドノフォリオ(Heather Daly-Donofrio/Chief Tour Operations Officer)によれば、コースセッティングについてUSLPGAとしてガイドラインはあるが、公表していないとのことだが、どの大会も6~8週前に農医学者をコースへ派遣し芝の状態を見てグリーンキーパーに指示を出したりしている。選手教育については、2日間のルーキーオリエンテーションを行っている。さらに、ベテランとルーキーが会話できる機会を積極的にセッティングする工夫もあると言う。今年は下部ツアーのシメトラツアーに、ナンシー・ロペスを呼び、話をしてもらう機会を設けている。

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USPGAツアー独自のシステム

PGAツアーレギュラーシーズン最終戦であるウィンダム選手権で目立っていたのは、ギャラリーを楽しませる大型ビデオディスプレイ(Official Large Outdoor Video Display Provider)。三菱電機製のLEDボード11台を、ツアー自ら所有しており、主催する全試合に設置しギャラリーサービスを行っている。

順位速報だけでなく、選手のスタッツや、ボードが置かれたホールのショットの結果やボールの位置などが映し出される。ウェブサイトで見られるものと同じ詳細な情報を、大画面で見ながら試合を楽しめるのは、ショットリンクが、詳細なデータを提供することができるからだ。屋外で、見た目だけでしか情報を得にくいゴルフトーナメントにおける画期的なサービスといってよいだろう。

情報提供の根源となるショットリンクとは、PGAツアーのシステム。様々な改良を重ね、緻密なものになってきている。レーザー計測器を全ホールで使用し、全選手のショット結果をデータ化している。18ホールすべてのグリーンと、パー4、パー5のセカンド地点、パー5のサード地点、つまり通常なら36か所でレーザーによる計測が実施されていることになる。

実際に計測するのはボランティアスタッフ。結果はリアルタイムでショットリンクのトレーラーに届いてチェックを受け、データがPGAツアー本部(フロリダ州)に送られる。ここを経由して、メディアセンターを始めとするさまざまな箇所に、ほぼタイムラグなく送られている。ファンが世界中で見られるPGAツアーウェブサイトでのショットリンク情報も、トーナメントの現場でLEDの大画面で見られる情報も、実はフロリダを通していると言うわけだ。

これが、PGAツアーのオリジナルシステム“PGAツアーショットリンク”の秘密だが、残念ながらツアー主催ではないメジャーの大会では使用されていない。また、グリーン上での計測については、今後、無人化も計画している。そのための定点カメラ(各グリーンに3か所ずつ)での撮影が、奇しくもウィンダム選手権で行われていた。

PGAツアーでも、スマートフォンなどによるギャラリーの撮影は、本戦中は禁止なのが現状だ。ただし、この次の試合からはスマートフォンであれば本戦中も写真、動画とも撮影OKと言うことが決まった。コミッショナーの意向によるもので、SNSでの使用もできると言う画期的なもの。SNSによる宣伝効果、底辺拡大などを重要視した結果だろう。

その一方で、ボストンマラソンのテロ以来、対策には力を注いでいる入場ゲートでの手荷物検査は必ず行われており、大きなカバンの持ち込みは禁止。これは、前述のソルハイムカップでも同様だった。

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