バックステージツアーvol.1

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(株)ダンロップスポーツエンタープライズ
トーナメント事業部 運営グループ長
ゼネラルマネージャー
 浅井 政彦氏

トーナメントにおけるローピング

「トーナメント観戦では観戦エリアとプレーエリアがローピングによって線引きされている。プレーヤーが存分にパフォーマンスを発揮でき、かつ一人でも多くのお客様に、安全かつ、プレーを十二分に堪能できるギリギリの境界線。「魅せる」トーナメントの重要な舞台装置となる「ローピング」にかかる工夫と配慮、意味するところまでを浅井政彦氏に語っていただいた。」

ローピングの目的は?

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ゴルフは他のスポーツと違って、観戦できる場所が決まってないので、ゴルフ場の境界線づくりをします。プレーエリアと、プレーを観戦するエリアをローピングで分ける事になります。ミスショットがロープの外に飛んでくる事や、ギャラリーの通る道を確保したり、傾斜があって滑ったり転んだりという事も考えなければなりません。特に打球事故対策で言うと、プレーヤーがこのホールでどのように狙ってくるか、どちら側に打つのかを考えた上でプレーゾーンを広めに取り、それでもギャラリーがちゃんと見れる、あるいは歩けるルートを確保しなければなりません。第一にはやはりギャラリーが見に来て楽しく観戦して帰ってもらうことが重要なので、最優先で考える事は安全に観戦できる事です。

作業スケジュールは?

初めてトーナメントが開催されるコースについては、使用するティーグラウンドの設定に基づいて各ホールのローピングを考え、ギャラリーゲートの位置やギャラリープラザの位置の決定に基づいて、ギャラリーの通る導線がしっかりと確保できるかどうかを考えながら、事前の下見段階である程度大枠のイメージを作っています。実績があるコースに関してはデータを残しているので、そのデータに基づいてローピングをします。だいたいトーナメントウィークの月曜日に18ホールローピングをします。火曜日の午前中から細かい部分の手直しや調整をします。そのあと練習ラウンドで実際のプレーを見て、ティーショットの飛距離や、狙い方を確認して微調整をしています。そしてプロアマが終わったあと本戦に向けての最終的な確認、修正をします。本戦の朝、コースチェックに行った時に、その日の天候やピンポジションとあわせて最終チェックをします。ピンポジションによってプレーエリアを広げる事もあるので毎日修正はしなければなりません。

作業方法は?

基本的にはスタッフが最低2名で各ホールのティーグラウンドに立って、このホールはこんな感じで張ろう、この距離の地点あたりに横断路(クロスウェイ)を作ろう・・・、という打合せをしてから、イメージに基づいてローピング杭を刺していきます。ローピングスタッフは10~12人くらいで作業していきます。アウトとインを別々の人が作業をすると一貫性がなくなりますので、アウトイン共に同じスタッフが同じ観点でローピングをする様にしています。必要な部材としては、ローピング杭は2,000~2,200本くらい必要です。ロープの量はコースの距離がだいたい7,000ヤード位あるので、両サイドを考えて14,000~20,000ヤード分、またコースの形状が統一されているわけでもなく、場所によってはダブル(上下2段にロープを張る)の部分もあります。18ホール以外のエリアの分も合わせると、全体で40,000ヤード分くらいになります。
男子トーナメントは、だいたい240~320ヤード、女子は190~270ヤードくらいがティーショットの落下地点となります。基本はそのエリアをなるべくスタジアム状になるようにしています。まっすぐロープを張ると後ろの人が見えにくくなるので、徐々にロープが押されてしまいます。基本的にスタジアム状に作れば多くの人が見えるようになるので出来るだけそのようにしています。若干、フェアウェイの真ん中からは遠くなるかもしれませんが、動かなくても見えるのでロープを押す人がいなくなります。毎日夕方にローピングのチェックをしに行きますが、全く歪みがなくきれいな状態のままになっている場合は、ロープを押すことなく、選手のプレーが見れたんだという事がわかります。例えば50人が見れるためにローピングを選手の近くにしても意味がないので、少し広げて遠目からでも300人くらいが見えるようにと考えてローピングをしています。
またローピングにはいくつか決めごとを作っています。たとえば横断路の幅は9~10歩、杭と杭の間隔は14歩くらい、ティーグラウンド周辺の杭の間隔は8歩くらいとか。あとは感覚的なものですね。何がこれくらいと一応の決めごとはありますが、全部その通りにやればいいかというのではなく、ケースバイケースで臨機応変に対応するかが重要です。JGTOのディレクターがコースセッティングをしているのと同じ様に、ローピングディレクターがいて、このホールはこう張ろう、こうしておかないと観戦できない、選手はこちらのほうに打ってくる、など考えながらローピングを行っています。

ローピングの達成感は

打球事故ゼロ、滑って転んだ事故ゼロは、やはりゴルフトーナメント運営の基本目標としています。安全かつ楽しく観戦できるトーナメント運営を目指す、というのがローピングにおける一番の目標としているので、入場者が多く事故なしでトーナメントを終了できたら、それはもう達成感がありますね。それと1万人以上のギャラリーが集まった時など、きちんと思った通りに、スタジアム状のローピング部分に、前のギャラリーが座って後ろが立ってという状態になっているのを見ると、こちらの作戦にうまく乗って観戦してくれているんだな、と思うと、良かったなと感じます。また、ギャラリーが入った状態でポスター用の写真撮影などをする時に、ピタッと決まったいいローピングのラインが出ていたり、ロープが押されることなく観戦できているギャラリーを見るとうれしいですね。

その他工夫されている事は

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選手がプレーする上でギャラリーが多く毎回ストレスを感じるようではいけないので、少なくともティーグラウンドにはストレスなく上がれる事を運営側で対処したいと思っています。ギャラリーが1万人以上入るトーナメントや、1組に多くのギャラリーがつく様な場合に、ゴルフ場の地形や次のホールへの導線にもよりますが、グリーンを終わってから次のホールのティーグラウンドにいくまでの間は、ローピングの無い部分を通る事になるので、ローピングで選手が通れる通路を作るようにしました。選手もスムーズに次のホールに入っていけると言ってましたし、花道のように両側にいるギャラリーから送ってもらえるので雰囲気も良いです。

ギャラリーの方へのお願い事は

ロープをまたがない、くぐらない、ロープを押さないという事は守って頂きたいです。ロープが張ってある所はいずれにしても何らかの意味があって張ってますので、不用意にロープの中に入る事はしないようにしてもらいたいです。例えば滑りやすいとか、ここから先に行くと危ないので行ってはいけないようにするためにロープを張ってあるので、プレーをしている部分のロープ以外も越えて行く事はしないようにして下さい。あとは足元が滑りにくく、歩きやすい靴を履いて楽しくトーナメント観戦に来てほしいですね。