トーナメントギャラリー数UPを考える
2015年、日本の男子ゴルフツアーは、1試合平均ギャラリー数で女子ツアーを下回る結果となった。試合数が増えない、ギャラリー数が減ってきたと言われて久しいが、改めて現状を分析し、人気回復の糸口を探してみよう。
人気選手の米ツアー参戦でギャラリー数減少
女子人気を男子にも向ける工夫を
バブル崩壊以降、日本は長期にわたる経済低迷期に入った。それにともなって男子ツアーの試合数は減少し、1993年には39試合だったものが2014年には23試合にまで落ち込んでいる。同時に平均ギャラリー数も、1992年には2万5,000人以上あったものが2015年には1万4,000人余と、大きく落ち込んでいる。
2007年、石川遼選手が“ハニカミ王子”として時代の寵児となり、さらに2009年に史上最年少賞金王になると、平均ギャラリー数はバブル期に匹敵するほどに回復した。しかし、ほどなくしてリーマン・ショックや東日本大震災などが発生。日本経済は大打撃を受け、試合数増加に至ることはなかった。
2010年以降は韓国人選手の活躍が目立つようになり、ギャラリー数は再び減少。石川選手に加え、ニューヒーローと期待された松山英樹選手もアメリカツアーに参戦するようになると、ギャラリー数減少に拍車がかかる形になった。
一方、女子ツアーは、2000年頃に人気が凋落。2003年に宮里藍選手がプロ入りすると人気を回復したが、2006年に彼女が渡米するとギャラリー数も減少した。しかし現在は、バブル期に匹敵する試合数(37試合)があり、ギャラリー数もわずかだが上昇傾向だ。これは、男子ツアーに比べて試合開催のコストが安いこと、そして女子プロならではの華やかさが好影響を与えていると考えられる。
男女の人気は、大きな傾向としては連動しているので、女子ツアーの人気を男子にも向けさせる工夫が必要ではないだろうか。
男子・女子ツアー 1試合平均ギャラリー数(1991〜2015)
男子ゴルフを観戦したことのない人約100名にアンケートを実施。
ギャラリーが求めるものとは
テレビでのゴルフ観戦は一般的
その興味をいかに会場に導くか
ジャパンゴルフフェア(2016年2月19日~21日・東京ビッグサイト)の会場に訪れた、今まで男子ツアーの観戦経験のない男女約100人(20代~60代、男性57人、女性49人)にアンケート調査を行った。
「今まで観戦したことのあるスポーツ競技は?」という質問では、男女ともプロ野球がトップ(男性43人、女性28人)となり、女子プロゴルフが2位(男性31人、女性26人)、サッカーが3位(男性19人、女性21人)となった。4位には男性が大相撲、女性ではテニスと続いた。
昨年大ブームを巻き起こしたラグビーは、実際に観戦経験のある人は男性8人、女性2人と少数だった。来シーズン以降、昨年のブームを定着させることができるかどうかが注目される。ほかにバレーボール、フィギュアスケート、アメフト、プロレス、陸上などの観戦経験のある人がいた。
「テレビで見たことのあるスポーツ競技(男子ゴルフを除く)」について聞くと、男女とも1位は女子プロゴルフだった(男性49人、女性40人)。多くの人がゴルフのテレビ観戦経験はあるということだ。次いで男性では2位プロ野球、3位サッカーだった。4位以降は大相撲、テニス、バレーボール、ラグビー、フィギュアスケートと続いた。
女性は2位にフィギュアスケート、3位にサッカーとプロ野球、さらに5位テニス、6位バレーボール、7位大相撲、8位ラグビーだった。
ジャパンゴルフフェア会場で行ったアンケートという環境的な要因は大きいが、約84%の人が女子プロゴルフのテレビ観戦をし、約54%の人が実際に試合観戦の経験があることがわかった。女子プロゴルフは多くの人の注目を集めるコンテンツの一つであるようだ。
テレビでなら見るプロゴルフの試合を、実際に試合会場のコースで観戦してもらうためには何が必要だろうか。そして、女子ツアー人気を男子ツアーにも増幅させるためには、何をすべきなのだろうか。
Q. 男子プロゴルフの試合を観に行かない理由は?
Q. どのようなきっかけ・サービスがあれば
男子プロゴルフの試合を観に行きたいと思いますか?
会場までのアクセス、スター選手、入場料金やトイレなどが改善点か
「男子ツアーを見に行かない主な理由」、そして「どのようなサービスがあれば男子ツアーを見に行きたいか」について聞いた結果は上の表を参照していただきたい。
男性・女性とも、ギャラリーは会場までのアクセスに大きな不満を抱えていることがわかる。アクセス方法については、これまでの取り組みに加え新しい方策が求められるようである。
また、とくに女性にとっては「清潔なトイレ」が、観戦のモチベーションに影響することもうかがえる。このあたりも改善されれば女性ギャラリーの増加が見込め、それにともなって男性ギャラリーの増加も期待できるのではないだろうか。
スター選手、人気選手の不在がギャラリー減少の大きな要因になっていることも明らかだ。スター選手の出現を待つだけでなく、ニューヒーローを育成する方法を探ることも必要かもしれない。
最後に「男子ツアーの試合の妥当な入場料金(当日券)は?」と聞くと、60%以上が3,000円と答えた。現在、男子ツアーの最終日当日券の平均は4,452円だから、1,500円ほどのギャップがあることになる。ちなみに、女子ツアーの最終日当日券の平均は3,527円だ。
ギャラリー数の向上のために、まだまだ検討すべきことはたくさんありそうだ。
ジャパンラグビートップリーグの
観客動員への努力に学ぶ
昨年のラグビーワールドカップ2015での日本代表チームのセンセーショナルな活躍もあって、急上昇した日本のラグビー人気。その秘密を日本代表チームディレクターを務め、トップリーグCOOとして長くトップリーグの創設と活性化に尽力されてきた元日本ラグビー協会理事の稲垣純一氏に聞いた。
ジャパンラグビー トップリーグ 1試合平均入場者数(2004~2016)
企業スポーツとして”社員の士気高揚”も大切な役割
昨年開催された「ラグビーワールドカップ2015」での、日本代表チームの活躍は記憶に新しい。五郎丸歩選手や山田章仁選手ら、スター選手が続々と誕生し、その後に開催された「ジャパンラグビートップリーグ」の試合会場に足を運ぶファンの数も一気に増えた。
ジャパンラグビートップリーグは、日本の社会人ラグビーの全国リーグ。元々あった各地域リーグと全国社会人ラグビー大会が発展的解消を遂げ、2003-2004シーズンにスタートした。16チームによるリーグ戦を経て、上位4チームによるプレーオフが行われる。
元日本ラグビー協会理事で、昨年の日本代表チームディレクターも務めた稲垣純一氏は、ラグビーの観客動員について次のように言う。
「観客数増加は長年の課題の一つです。サッカーやプロ野球は、試合を観に行く文化がありますが、ラグビーは企業チームなのでそれが難しい。観客数増加のためには、日本代表が世界で勝つしかないと考えていました」
稲垣氏が考えていた日本代表の世界での活躍が、昨年現実のものとなった。冒頭にも記したように、これによってトップリーグの観客数も大幅に増加した。
「今はメディアが勝手に宣伝してくれるので、来年くらいまではブームが続くと思っています。しかし、これをいかに継続していくかが今後の課題です。企業スポーツですから、社員の士気高揚や社会に対する企業のアピール力は大切です。そのためにはファンクラブや後援会、取引先の皆さんなどにアピールし続けていく必要があります。でもやはり、日本代表が勝つことが一番効果がありますね」
スター選手の登場以外にできることは何かを探ろう
実力があることが人気スポーツの最大の条件ということは、どのスポーツのファンもわかっていることである。プロ野球やサッカーが人気なのは、世界と戦って好成績を納めることができるであろうし、女性に人気のフィギュアスケートやバレーボールも、世界と肩を並べる実力を有しているからだろう。これに加えて稲垣氏は、スター選手の必要性を訴える。
「スター選手はつくらなければならないという声があります。でも、スター選手の育成は難しい。まずは実力がないと誰も見てくれないわけです。だから、ラグビー日本代表が勝ったことによって五郎丸選手や山田選手が注目される。スター選手は勝たなければいけません。ゴルフのテレビ中継では、トップの組しか映さないじゃないですか。そこに外国人選手ばかりいるようでは、チャンネルを変えてしまいますよね」
ゴルフにおいても、強い日本人スター選手が最大の集客力になることは明白だ。しかし、そんな“ないものねだり”をいつまでもしているわけにはいかない。選手以外の関係者でもできることを進める必要があるだろう。
「せっかく会場に足を運んでくれたのに、トイレは汚い、食べ物は美味しくない、雨が降った時に雨除けもない。これではお客さんが離れますよね。スポンサー集めは代理店さんがやってくれますが、競技運営やプロモーションは協会が中心になってやっていかないと、魂が入った運営にはならないと思います。ラグビーの場合は、プロモーション会社を交えてチームを作ってイベントの企画などをしています。基本的には自分たちでアイデアを出して、そこに色付けしてもらう形です」
トップリーグでは、ずっと続けていることの一つに「来場者と選手の握手」があるという。これは選手の自発的な動きで続けられている。ほかにも女性無料デー、寒い時に足湯やこたつスタンドの設置など、さまざまな工夫が見られる。
競技主催者が積極的にリードして試合の性格を方向づけ、さまざまな企画を立案し、地道に活動を続けていくことが集客につながる。
男子ツアーの会場内外で、どのようなことができるのか。いまもなお、さまざまな意見が求められている。