米ゴルフ界の 今年の序盤を振り返る ~「人」こそが、財産~
裏側に漂った不安と不透明感
米国景気が好況なときも不況なときも、あのリーマンショックのときでさえ、ほとんど衰えを見せることなく、賞金額をアップさせながら拡大成長を続けてきている米ツアー。現在も取り立てて何か大きな問題があるわけではないのだが、今年の序盤は、どことなく薄暗いムードがあちらこちらに漂っていた。
その理由の1つは、昨秋のライダーカップでの出来事が年を越しても尾を引いていたことにあった。米国チームのキャプテンだったトム・ワトソンの裁量を巡り、フィル・ミケルソンなどのチームメンバーたちが抗議して、チーム内に不協和音が充満。その結果、米国チームが敗北したのは、ある意味、当然の結果だったが、その不協和音は2015年の試合会場にまで持ち越され、選手たちのロッカールームの裏口トークは「この話ばっかりだ」と、ある米国人選手が教えてくれた。人格者として崇められてきたワトソンとミケルソンが、米国の名誉をかけて戦う場で激しくやり合ったというところが「すごくショックだった。ここだけの話、信じてきたものが崩れたような気分。何を信じたらいいのか、わからなくなる」と、その選手は不安を口にした。
そんな不安感や暗いムードを払拭してくれるものが期待される中、タイガー・ウッズの戦線離脱は暗さに輪をかける結果になった。この20年超、ウッズとともに成長してきた米ゴルフ界。たとえ世界ランキングが下がろうとも、勝利から遠ざかろうとも、ウッズの存在があると無いとでは何から何まで大違いだ。そのウッズが、このままツアーに復帰せず、ましてや引退してしまったら、米ゴルフ界はどうなってしまうのかという不安感は、瞬く間に方々へ広がっていった。
2つの大きな不安感に追加されたのが、ダスティン・ジョンソンにまつわる不透明感だった。昨夏、突如としてツアーを離れたジョンソンが、今年2月に突如として戻ってきた一件は、ジョンソン本人も米ツアーも「個人的な理由」「自主的な欠場」としか説明せず、ジョンソンのドラッグ使用や、それに対する米ツアーからの出場停止処分を疑う噂や憶測は広がるばかりだ。そのジョンソンが復帰早々、世界選手権シリーズのキャデラック選手権で勝利を挙げたときには、選手やキャディたちの間に漂う不安感と不透明感がピークに達した感があった。
オーガスタGCで練習ラウンドを行うタイガー・ウッズ(写真:舩越園子) | マスターズでメジャー初制覇を遂げたジョーダン・スピース(写真:平岡純) |
表舞台は好材料がいっぱい
とはいえ、こうしたマイナス要素はどれもテレビには映らず、真正面からの報道ベースにもあまり乗らない。テレビ画面に映し出される表舞台の部分では、今年の米ツアーには、たくさんの好材料が集まって見える。
2016年からロングパターの使用が禁止されるため、今年はそのための移行の年になると予測され、ロングパターを武器にしてきた選手たちの不調なども懸念されていた。が、ウエブ・シンプソンを始めとする使用選手たちのほとんどが、案外、スムーズにレギュラーパターにシフトしており、そうやって目で見てはっきり確認できると、不安や懸念はあっという間に払拭されていく。
毎週の優勝者たちの顔ぶれは実に多彩だった。パトリック・リードやブルックス・ケプカ、ジェイソン・デイといった若手選手が勝利を重ね、実績を積み上げる傍らで、ジェームズ・ハーンのような苦労人が夢の初優勝を遂げ、アメリカンドリームの素晴らしさを人々にアピールしてくれた。さらには、ブラント・スネデカーやパドレイグ・ハリントンといったナイスガイたちが久々の優勝を飾り、ゴルフファンの涙を誘っていた。
米ツアーがどんなに必死に、そして見事に運営方法やシステムを改良しようとも、やっぱり米ゴルフ界を盛り上げる最大の力となるのは、そこで戦う選手たちの顔ぶれとパフォーマンスだ。
そして、その流れが頂点に達したのがマスターズだった。ようやく戦線復帰したウッズはハイレベルなプレーぶりを披露して、人々を安堵させた。そして、ジョーダン・スピースによるマスターズ制覇は米ゴルフ界に眩しいほどの光をもたらした。スピースの優勝には、昨年大会で惜敗した悔しさを晴らした雪辱のストーリーももちろんあったけれど、それよりもスピースが知的障害者の妹を抱え、赤貧状態で大学生活を送りながら生活費欲しさにプロ転向し、何の保証も資格もないまま米ツアーに挑み、そこから這い上がってグリーンジャケットを羽織ったという彼の人生の歩みに深いストーリー性が感じられた。
米国のあらゆる分野の人間を、あらゆる角度からランク付けするマーケティング会社の調査によれば、スピースはマスターズチャンプになっても知名度ランキングでは1639位。だが、人々の手本となるロールモデル・ランキングでは、驚くなかれ、ゴルファーとしては史上最高の4位にランクイン。
今、米ツアーと米ゴルフ界が抱く最高最大の財産は、スピースのごとき「人」である。