ゴルフトーナメントの楽しみ方
トーナメントの面白さを”生”で伝えるインターネットライブ中継
近年、ゴルフトーナメントの新しい放送形態の一つとして注目を集めている「インターネットライブ中継」。
さまざまな実験的な試みが行われ、従来の地上波放送、BS・CS放送にも変化を与えている。
今年のTポイントレディスゴルフトーナメント、ヤマハレディースオープン葛城でのインターネット中継の取り組みを紹介しよう。
2013・2014トーナメント放送時間推移
トーナメント放送時間についてのグラフを見比べてみると2013年に比べて2014年で、大きく増加しているのはWEB、つまりインターネットライブ中継だ。1年でほぼ倍増している。逆に目立って減少しているのは地上波VTR。この減少は、地上波はじめBS・CS放送の生中継が増加していることが要因だ。テレビのトーナメント中継は、この3波のリレー中継などを活用し、できるだけ生で伝えたいというスタイルにシフトしつつある。この流れをつくっているのが、第4波とも言えるインターネットライブ中継の影響も大きい。
Tポイントレディスゴルフトーナメント
6ホールものプレーオフ完全中継でネットのメリットを最大限発揮
まずは、今年のTポイントレディスゴルフトーナメント(3/20~3/22)のインターネットライブ中継PV数(ページビュー数=ユーザーがページを閲覧した回数)に関するグラフを見ていただきたい。注目すべきは日曜日の15時以降。その数が大きく上昇していることがわかる。
Tポイント・ジャパンDBマーケティング事業本部の大会プロデューサー高原祥有氏と大会ディレクター宮川和則氏に話を伺った。
「今回のインターネットライブ中継では、3日間で140万を超えるアクセスがありました。曜日別に見ると、金曜日からは徐々に落ちてきています。これは金曜日は会社などで見ていた人が多いからだと考えられます。日曜日の15時以降にPV数が大きくはね上がったのは、飯島茜選手と全美貞選手が6ホールにもおよぶプレーオフを戦ったから。テレビ中継が終わった後からガンと上がったのは特徴的でした」
あらかじめ放送時間が決まっている地上波放送などと比べ、時間にとらわれないインターネットライブ中継の大きな強みが発揮されたというわけだ。その時間帯の同時視聴台数は約6万6800件。アクセス国数はのべ85ヶ国、アクセスした端末はパソコンが62.5%、スマホ31.1%、タブレットは6.3%となっている。
アクセス数は日本が98.65%、次いでタイ0.22%、中国0.20%、韓国0.16%、アメリカ0.16%だった。
「そもそもスポーツは、ライブで見てこそ面白さが一番伝わるのではないか」とのコンセプトでスタートしたこの大会のインターネットライブ中継。しかし、昨年の大会では地上波が録画、インターネットライブ中継も試合途中で終了となった。
「だから、今年はライブにこだわりました。生地上波、生BS、生CSの3波で基本的に18ホールをカバーして、そこにさらにインターネットをかぶせていく形。インターネットライブ中継はプロ野球中継の副音声のような感覚で、直接試合に関係ないことでも、選手やゴルフに興味を持ってもらえるようなことをリラックスした座談会風の演出でお届けしました。もちろん、気になる選手の情報をクリックするだけで見ることができたり、自分で番組を編集できたりすることなどもインターネットのメリットでした」と担当者は言う。
ゴルフの技術的なことやコースの情報以外にも、例えば選手は普段どんな生活を送っているか、どんな意識でゴルフをしているかなど、コメンテーター陣は豊富な知識と情報を持っている。それらをリラックスした雰囲気で伝えられることは、インターネットというメディアの魅力の一つだ。
インターネットの特性を活かしゴルフの面白さを多くの人に届ける
放送時間にとらわれないライブ感と、テレビ中継ではなかなかできないリラックスしたスタイルが魅力のインターネットライブ中継。その魅力に加え、今年のTポイントレディスゴルフトーナメントのインターネットライブ中継には、さらにさまざまなコンテンツが用意された。距離表示弾道解析による撮影、選手のクラブセッティングの紹介、オフのトレーニングの様子など、選手の素顔やそれぞれのショットの裏側にまで迫る内容だった。
担当者がコンテンツの狙いについて語ってくれた。「ゴルフの潜在層に向けて何かできないかという意味で、インターネット中継の中のいろいろなコンテンツを試しました。ただ、本当に潜在層を楽しませることができたのかどうかは今後検証したいと思います。いまは、もっとゴルフを楽しめるコンテンツを提供したいという思いだけで、あまり数字にはこだわっていません」
Tポイントレディス ゴルフトーナメントがインターネットライブ中継を始めて3年目。その放送スタイルはまだまだ発展途上だ。とはいえ、これまで一部の公式戦以外は録画放送が当たり前だったテレビの地上波中継に、BSやCS放送のリレー中継を駆使し、生中継が広がってきていることは事実。インターネットライブ中継が”生”の面白さを多くの人に気づかせた要因のひとつにもなっている。
「今後の課題は、もっとインタラクティブ性(双方向性)を取り入れていくべきだということです。例えば今大会、公式ツイッターに多くの意見が寄せられましたが、そういったことはあまり予想していませんでした。それを最初からインターネットライブ中継に取り入れていれば、もっと面白いものになったかもしれません」と、担当者は課題も指摘する。
ともあれ、今年のTポイントレディスのインターネットライブ中継が多くのファンに支持され、ゴルフの楽しさを大いに伝えたことは間違いない。
1番ホールのティーショットでは距離表示弾道解析が特殊カメラにより配信された | 解説ブースはクラブハウス前に建てられていた | 豊富な知識と情報を持ったコメンテーター達 |
ヤマハレディースオープン葛城
インターネットライブ中継はトーナメントの集客ツール
ヤマハレディースオープン葛城(4/2~4/5)でも、4日間トーナメントの毎日8時~17時にわたってインターネットライブ中継が行われた。加えて3日目、4日目はBS放送とCS放送をリレーでつなぎ、テレビでもほぼ一日中生中継を行った。
視聴に関するデータを紹介すると、大会公式ホームページのPV数は4日間で52万6434件、訪問者数は27万322人。動画サイトの総視聴回数は94万5749回、訪問者数は32万5270人だった。アクセスした端末はパソコンが53.5%、スマホ・タブレットは46.5%。アクセス国数はのべ47ヶ国で、そのうち日本は98%、次いでアメリカ0.25%、韓国0.21%、タイ0.19%、中国0.13%だった。
ヤマハレディースオープン葛城大会事務局の石岡千秋氏に話を伺った。「当初からのコンセプトである『生中継でゴルフの醍醐味を伝えたい』ということを目的にスタートし、テレビは3年前に生中継に変更しました。インターネットライブ中継では、テレビで表現できない情報や映像を積極的に提供し、さらにSNSを駆使したインタラクティブな通信も可能にしました。試合会場に来られない視聴者にも臨場感たっぷりに楽しんでほしいという思いは、これからも変わりません」
予選ラウンドの様子をテレビやネットで見て、週末コースに足を運ぶファンもいる。つまり木曜日、金曜日のトーナメント中継は、決勝ラウンドの集客、そして決勝日のテレビ視聴率を上げる役割を果たす。そのためには生の迫力や臨場感、楽しさを伝えるためのコンテンツを視聴者に届ける必要がある。平日という制約があるため、いかにして多くの人に視聴してもらうかは大きなポイントだ。
「今回は、平日の日中にテレビはもちろんパソコンなども見ることができないゴルフファンへのホスピタリティとして、毎日15分のダイジェスト版を制作し、配信しました。これは視聴者から大きな評価を得ることができ、同時視聴台数が1万を超えることもありました」と石岡氏は言う。
今年のヤマハレディースオープン葛城の入場者数は、3日目が3,610人と4日間最高。最終日は悪天候のために2,845人にとどまったが、ダイジェスト版の効果はあったに違いない。
インターネット中継センター | ライブ中継では様々な解説が行われた |
試合会場でもパソコンでも同じように楽しめる試み
ヤマハレディースオープン葛城のインターネットライブ中継の大きな特徴は、コース内にインターネット用スタジオ「ネスカフェサテライトスタジオ」を設置したことだ。
これまで多くのトーナメントのテレビ放送やインターネット中継などでは、試合会場に足を運ぶギャラリーが番組解説者のコメントやゲストのトークなどを聞くことはできなかった。
しかし、このサテライトスタジオはいわば“オープンスタジオ”。コメンタリーブースを観覧できるだけでなく、生中継の番組を丸ごと聞くことができた。試合会場にいるギャラリーと、パソコン前のゴルフファンが同じ放送を楽しめる企画は画期的だ。
「私たちがインターネット中継を始めて3年目。想像以上に大きな進歩を遂げています。技術面が充実し、新たなアイデアもいろいろと出てきています。海外では競技映像だけではなく、各選手の競技データや技術解析データを閲覧できたり、選手一覧にある名前をクリックすると、その選手のプレイ映像がリアルタイムで閲覧できたりする仕掛けなどが現実化しています。これらを参考に、さらに進化させていきたいと考えています」と石岡氏は言う。
インターネットライブ中継は、単に試合会場に来られない人のためのものではない。試合会場に来てもらうための大きな集客ツールであり、来場したギャラリーも楽しませるツールとなっている。今後もその大きな可能性に、さらなる期待が寄せられている。