2019年ゴルフルール変更
ゴルフをもっと優しく、楽しくする
大幅なルール変更を実施
2019年1月1日、ゴルフのルールが大きく変わる。ゴルフというゲームをよりわかりやすく、これからゴルフを始めるプレーヤーにとっても理解できるよう、複雑になった現行ルールを大幅に優しくしている。今回のルール変更の狙いや概略について、公益財団法人日本ゴルフ協会規則統括部長・市村元さんに話を伺った。
ゴルフ人気回復のための施策の一つ
─ 今回のような大きなルール変更が、どうしてこの時期に行われたのでしょうか
世界的にゴルフ人気が低迷している中で、いろいろな施策が必要です。ルールの観点からゴルフ人気回復につながることはないかということから、ルール変更が行われることになりました。
「ルールが難しい」ということでゴルフを敬遠する人がいます。また、ゴルフをする人でも、ルールが権威的で好きではないという人もいます。その結果、「我々はカジュアルなゴルフを楽しみたいから、ルールを守らなくても良い」と、ルールを守らないことにもつながります。それでは困りますよね。そこで、ルールをもっと簡単にする必要があるのではないか、となったわけです。
─ このような大きなルール変更は、過去に何度も行われているのですか
歴史的に見ても、大きなルール変更が行われることは、決して珍しいことではありません。
1984年にも大きく変更され、以来4年に1度マイナー変更が行われてきました。そしてそのつど、どんどんルールは複雑になってきました。長い間使っていると必然的に複雑になってくるので、そろそろ世界のゴルフ人気も考えて、ルールを見直さなければいけないというタイミングだったのだと思います。
─ 今回の変更は、どのような流れで行われたのでしょうか
R&AとUSGAが2012年にワーキンググループを作り、今回の変更の作業に入りました。これは4年に1度の機会を待たずに行われたものです。世間ではオリンピックがあるから、などと言われていますが、そうではなく「いいことは早くやろう」、「できたのであれば早く使おう」ということで、2019年のタイミングになりました。この新しいルールが実際のゲームにフィットするかどうかは、これから判断しなければなりません。実際に使ってみてうまくいかないことも出てくるかもしれませんが、それを4年先に変えるのか、それより早いタイミングで変えるのかは、現状では分かりません。
「もっとプレーヤーを信じる」ルールに
─ 今回の変更の概要を教えてください
分かりやすく言えば、「ルールを簡単にシンプルにした」ということです。プレーヤーがなるべく読みやすい、理解しやすい、直接的に理解できるようにと新しい規則書にはカラーで図なども入っています。
規則書は2種類あります。一つはフルバージョンの『ゴルフ規則書』(本規則書)です。全てのルールが掲載されているので、レフェリーや競技運営者などが読む本です。もう一つは、その中からプレーヤーがコース上で頻繁に使うルールを抜粋したもので、『ゴルフ規則プレーヤーズ版』と言います。
プレーヤーズ版は、今までと違って「ですます調」で解説し、よく使うルールだけが載っています。あまり使わないルールはアイコンを付けて本規則書へ誘導しています。
R&AやUSGAも、このプレーヤーズ版を持ってコースに出てくださいと推奨しています。JGAも「規則書の携帯はゴルフのマナーです」というポスターを加盟クラブに配っています。内容も分かりやすくなったので、プレーヤーにはぜひゴルフバッグに入れていただきたいと思っています。
─ 新ルールの基本的な考え方は
ゲームをシンプルにするという意味で、「もっとプレーヤーを信じよう」という大きな考え方をしています。
ゴルフは他のスポーツと違って、自らがルールを誠実に運用し、必要であれば自分に罰を課すというゲームです。これに基づき、もっとプレーヤーを信じようということで、色々な処置をいちいちマーカーや他のプレーヤーに申告しなくてもよくなりました。
また、できる限りルールの処置を統一する努力も行われています。例えば、すべての救済措置で球を取り替えることを認めていて、道路からの救済を受けるときに球を取り替えることができるようになります。カジュアルウォーター、修理地、動かせない障害物からの救済措置は、新しいルールでは完全に同じです。
偶然に起きてしまったことに対する罰もできるだけ廃止しています。パッティンググリーン上に限ってですが、球を偶然に動かしてしまっても罰はありません。固くて速い近代のゴルフコースを考慮しての変更です。ストロークした球が偶然に自分自身やキャディー、自分のバッグ、ゴルフカートに当たった場合も罰はありません。故意に行ったのではなく、偶然に起きてしまう2度打ちの罰も廃止となりました。
プロにも適用される世界共通のルール
─ プレーのスピードアップのためのルール変更という声も聞きますが
ドロップはひざの高さで
旗竿を立てたままでも罰はない
後方に人を立たせることは禁止
バンカー内の球に対する新しい選択肢
プレーのペースの援助をするための変更も多くありますが、プレーのペースの援助をするためだけにルールの変更が行われたわけではありません。プレーのペースが遅いのはルールのせいだけではありません。ホールロケーションが厳しすぎたり、単にプレーヤーの行動が遅かったりすることなども、原因の一つですから。
ただルールにも少し原因があって、例えばドロップなどはそうです。これまでは肩の高さからドロップをし、再ドロップしなければならない条件も9項目ありました。これでは何回も再ドロップして時間がかかります。そこで、今回のルール変更では、ドロップする高さをひざの高さ(以上ではなく、真っ直ぐに立ったときのひざの高さ)としました。救済措置は救済エリアが設けられ、ドロップした球が救済エリアに止まればOKとなりました。
─ 他にプレーのスピードアップのための変更はありますか
レディーゴルフです。これはストロークプレーに限りますが、打つ準備のできたプレーヤーから打って良いというルールです。旗竿を立てたままパットしても良いようにもなりました。
新たな禁止規定としては、スタンスを取るときに目印となるクラブを置いてはいけないこと、スタンスをとった後ろにキャディーが立ってはいけないことなどが加わりました。プロツアーでよく見る光景ですが、これらのルールもプレーのペースの援助となることでしょう。
─ アマチュアゴルファーに影響力の大きい変更点はありますか
ペナルティーエリアという新しい概念ができました。これは水域でなくても、例えば打ちにくい林や崖などにも設定できます。ここに打ち込んだら、ティーイングエリアに戻るのではなく、ペナルティーエリアとしての処置がとれるようになります。
バンカー内の球を2罰打でバンカーの外にドロップできるというアンプレヤブルの新しい選択肢もできました。バンカーが苦手なアマチュアゴルファーには朗報かもしれません。バンカー内でルースインペディメントを取り除けるようになることも、枯葉が多いところでは役立つと思います。
─ プロのトーナメントでは、どこまで適用されるのですか
ゴルフルールは常に一つなので、プロトーナメントでも同じように適用されます。例えば2罰打でバンカーの外から打てるアンプレヤブルのルールなども適用されます。規則書に載っていることは、世界中の全てのゴルファーに共通なのです。
コースの名称
(コースは上記の4つの特定のエリアとなります。
そして4つの特定のエリア以外の所はジェネラルエリアと呼びます)
新ルール浸透までには1〜2年かかる
─ 今回のルール変更をどのように周知していきますか
ポスターを作って、JGA加盟クラブだけでなく未加盟クラブにも配布しました。また、これから8地区ゴルフ連盟を中心に説明会を行って、その後、都道府県競技団体や日本パブリックゴルフ協会などでも説明会を行う予定です。そのためにはしっかりとした講師を育てなければいけません。規則担当のスタッフは当然ですが、JGAはボランティアの委員などで構成されていますので、その人たちも一生懸命ルールを勉強しているところです。
現在Facebookで紹介している動画も、JGA加盟クラブに配ってレストランなどで流してもらえればいいなと思っています。また、R&Aがルールに関するアプリを作っており、その日本語版も開発中です。半年後くらいには配信されると思います。
─ 新ルールの浸透にはどれくらいの時間がかかると思いますか
これだけ大きなルール変更なので、すぐには馴染んでいかないと思います。やはり1~2年はかかるでしょう。ただ一般のゴルファーにとっては、ルールがシンプルになるので、あまり混乱はしないと思います。
─ 新ルールはゴルフ人気の向上に繋がりますか
R&AとUSGAが非常に苦労して、できる限り原則を残しながら大きく変えてくれた新しいルールは、ゴルフというゲームの挑戦性、フェア性が十分に保たれています。新ルールはゴルフ人気の向上にも役立つと期待しています。ぜひ皆さんに新しいルールでプレーしていただきたいです。
出版物のご案内
2019ゴルフ規則書
ゴルフ規則のフルバージョンです。
1,400円(税別) サイズ:A5判
2019ゴルフ規則 プレーヤーズ版
プレーヤーのために作られたコースで頻繁に使用する規則を収録した
簡略版です。
600円(税別) サイズ:A6変型判
これらの書籍はJGAホームページ(www.jga.or.jp)で11月12日より発売